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【MaaS】自動車に0円で乗るための事業を創る -新しい広告の形とは-

前回の投稿につづき、自動車に0円で乗るための事業を考えていきます。

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前回はカーシェア×広告モデルで車に0円で乗る方法を考えていました。

今回は広告の掲載方法を深掘りして考えるところからスタートします。

 

目次 

■広告の掲載方法を深掘りして考える

車に広告を掲載するにあたり、問題点が2つあります。
1. 車両表面に広告を貼るにはコストがかかる(ざっと60万円)
2. 広告の変更が容易ではない(車両の広告を貼りかえる必要あり)

実は、そもそも車両の表面に広告を載せる以外にも、広告掲載方法があります。

車両の屋根にデジタルスクリーンをつけて広告を表示するのです。

この方法をとっている企業が、米「Firefly」です。

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FireflyはUberLyftの車両の屋根に広告を表示し、既に
・1ヶ月当たりのインプレッションが1.5億回を超えており、
・コンテンツが再生された時間が65万時間を超えています。
(Firefly HPより)また、Fireflyはただ単に広告を表示するだけではありません。Fireflyの取り組みをForbesでは以下のように紹介しています。

 
"Fireflyのスマートスクリーンは広告を表示するだけでなく、大気汚染や道路の渋滞状況などのデータを取得し、都市の環境を改善する役割も果たすことになる。Fireflyのデジタルスクリーンは、地域ごとにターゲティングした広告が配信可能で、学校の周辺でアルコールの広告を表示したりはしない。また、広告の10%をNPO団体などの公益性の高い広告にするという。さらに、地元のコーヒーショップなど、地域に根ざした小規模なビジネスを支援することも目標としている。
調査企業Zenithによると、屋外広告市場の売上は2018年に3%の成長が見込まれるという。Fireflyのデジタルスクリーンは初期費用無料で導入可能だが、週に最低40時間勤務するフルタイムのドライバーが対象になる。Gunayによると、ドライバーは平均で月に300ドルを稼げるという。"
(出所:[Forbes]ウーバーの運転手に広告収入を与える企業「Firefly」が25億円調達)
↑すばらしいですね。
 
さらに、ディスプレイの価格が下がっていることも、デジタルスクリーンをつける方針を後押しします。
 
[ディスプレイの価格下落例]
・OLED TVパネル(OLEDはiPhoneXにも採用されているディスプレイ)の平均価格は2018年には1平方メートル当たり771ドルで、2022年までに1平方メートル当たり488ドルまで下がると予想されています。これに対して、LCD(液晶) TVパネルの価格は2018年第4四半期に170〜200ドルになります。
・2018年のOLEDスマートフォンパネルは1平方メートルあたり5,844ドルの平均面積価格で販売されており、これは2022年に1平方メートルあたり3,720ドルまで減少すると予想されます。(2022年にはこれらのOLEDスマートフォンの収益の16%が折りたたみ式パネルになると考えています。)
参考:https://www.displaysupplychain.com/blog
 
以上から、もともと挙げていた2つの問題点への対策を考えます。
 
1. 車両に広告を貼るのにコストがかかる(ざっと1回60万円)
→デジタルスクリーンを車両に設置し、デジタルコンテンツを利用することで安価に広告を表示する。(既に作成済みの画像を転用する等)
多めに見積もっても、
デジタルスクリーン+センサー+コンテンツ・デザイン作成費
で合計30万円はいかないと思います。(センサーは気温・空気汚染測定等の簡易なものを想定。コンテンツ・デザインは拘りだしたらキリがないですが。)
デジタルスクリーンを車両に乗せる方が、車両の表面を加工するわけではないので、コストが安くなると思います。
 
2. 広告の変更が容易ではない(車両の広告を貼りかえる必要あり)
→デジタルスクリーンは広告の切り替えが容易なので、こちらの問題点はすぐに解消します。
 
ここでデジタルスクリーンを活用した場合の1台・1ヶ月の推定収支を計算します。
・収益:30万円(広告収入)
・費用:12万円(カーシェア費用)+3万円(デジタルスクリーン等合計使用費用・管理費用を多めに見積り) = 15万円
・利益:15万円
 
さらに、Fireflyのようにセンサーデータを取得し、外販できるとすれば収益はさらに高くなります。
これなら、仮に広告料をもっと下げたり、カーシェア費用やデジタルスクリーン費用が嵩んだりしても利益が出るのではないでしょうか。
 
広告料を下げるケースとしては、例えばカーシェアで車が借りられている場合でも、実際には買い物中など駐車場で車が止まっている時間が長い場合もあり得るため、広告料を少し下げても良いかもしれません。
デジタルスクリーンの費用が増えるケースとしては、センサーをネットワークに常時接続してリアルタイムでデータを送るとなると、通信費・サーバー代等も発生するため、費用が増加します。
 
デジタルスクリーンに掲載する広告を管理するプラットフォーマーが登場し、カーシェア車両に実際に広告を掲載できるようになれば、ユーザー(車に乗る人)にとっては車両を0円で使用できるようになります。
今回はざっくりと金額計算を行ったので、実際に事業化する際にはより精緻に見積る必要があります。
 

■今後0円車両を実現するにあたっての考察

・高需要の場所に車両を配置
車両の稼働率が高い方が、より多くの人に広告を見てもらいやすいため、需要の高い場所に車両を置く必要が出てきます。既に中国のDiDiなどが行っているような、需要予測・最適配置が重要になると思います。(DiDiの具体的な取り組みやアルゴリズムについては以下の記事をご参照)
日本は周回遅れ!? 最先端の中国AIライドシェア(DiDi)の技術に迫る
 
環境負荷の考慮
もし仮に0円車両が多く利用され、所有されている車を含めた走行車両の台数が過剰になった場合、排気ガス量も多くなるため環境への負荷が多くなってしまいます。その際には、カーシェア車両の利用価格を0円ではなく、ダイナミックプライシングにすることで稼働台数を調整可能だと思います。ダイナミックプライシングは需給バランスを見て価格を調整していますが、需給バランス以外にも環境への負荷も考慮して価格を変動させても良いかと思います。ダイナミックプライシングでも稼働台数を抑えられない場合は、配置車両数を減らすなどの手段が必要になります。
 
・広告料の検討
現在、1ヶ月当たりの広告料を約30万円としていますが、看板広告と比較すると30万円は高いです。仮に、広告料を月に15万円程度にすると収支がトントンになります。
 広告料がより低くなる場合は0円自動車をあきらめ、広告料により低価格で車を借りられるカーシェアサービス(e.g. 1,000円/h→300円/h)も検討します。こちらの方が現実的かもしれません。
 
・デジタルスクリーンのバッテリーチャージ方法
車の上にデジタルスクリーンを乗せるため、バッテリーのチャージ方法は工夫する必要があります。コンセントにつないでチャージする方法が一般的ですが、車両のバッテリーからチャージできたり、太陽光パネルを設置して充電するなど多様な方法が考えられます。将来的にはEVの普及率も高まるため、車両から直接電気をもらいデジタルスクリーンのバッテリーをチャージするのが主流になると思います。
 
・0円「自動運転タクシー」の登場
今後、運転席に人がいなくても良いレベル5の完全自動運転車が登場した場合、人件費がかからないため、カーシェアでなくとも0円でタクシーに乗って移動することも可能になるかもしれません。逆にレベル4までは、運転席に人がいなければならないため人件費がカットできず、現状のタクシーとコスト構造はほとんど変わらないでしょう。(高機能な車両のコストがかかる分、費用はより高くなると思います。)
レベル5の自動運転車の登場はまだまだ先かつ、それほどシェアも大きくなりづらいと考え、自動運転タクシーが事業をスタートさせるのは10年以上先になるかもしれません。(下記参照。様々な企業から自動運転車の普及予測が出ていますが、直近のレポートを参照しています。)出所:PwC Strategy& デジタル戦略レポート 2018
 

■さいごに

これまで、カーシェア×広告によって、0円で車に乗る方法を考えてきました。
この事業で0円になる車両を”Zero fee car(ZFC)”と呼びたいと思います。
繰り返しになりますが、今まで行った計算は概算であるため、今後はより長期かつ細かく試算をする必要があります。(もちろん、他にもかかる費用があるなど突っ込むところはあるかと思いますが、細かい部分はまさに今、検討中です。)
 
今後、ZFCに乗れる社会を作っていけることを期待しています。