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リソースレボリューションとIoT

「リソースレボリューションの衝撃」という本が面白い。
 この本では、2030年までに25億人の人口が中流層に加わることと、技術革新によって、100年に1度のビジネスチャンスが目の前にあると言っている。



 
 25億人の人口が中流層に加わり、工業技術と情報テクノロジーが融合すれば、資源利用の在り方が全面的に変わる。そこに革命的な変化が起こるチャンスがあると見ている。この100年間OECD諸国が独り占めにしてきた繁栄、清潔な空気と水、そして美しい年を、新興国の25億人の新中流層が享受できるようになる。ここに途方もない経済機会が生まれる。 

 アメリカでは、人口100万人を超える25の都市圏が出来上がるのに、100年を要したが、中国ではこれから2025年までにこの規模の都市が221か所できることになる。また、インフラができると、都市に流れ込んだ新たな中流層は自動車で通勤し、暖房で家を温め、夏には冷房で冷やし、ほとんど毎日のように肉を食べ、自宅の清潔な水で衣類を洗濯し、フラットテレビの前でくつろぎながらスマホをいじり、電子レンジでおやつをあたためて食べるようになる。彼らは数億台の車を運転し、毎日数10億ガロンのガソリンとディーゼル燃料を消費する。このような状況になると、これまでと比較して当然ビジネスチャンスが非常に多くなってくる。



 今回は、「リソースレボリューションの衝撃」 の中で1つの章として取り上げられている、IoT(Internet of Things)について触れていきたい。IoTとは、ネットワーク上に機器等のモノが接続することを言い、代表例としては、GEのIndustrial InternetやSiemensのスマートファクトリーなどで利用されている。

 機器がネットワークに接続できると、機器同士がコミュニケーションをとることができ、従来は人間の判断で機器を操作していた所を、機器同士が自動的に操作を行うことができる。大手コミュニケーション企業のエリクソンは、2010年代の終わりには、500億個のデバイスがインターネットにつながり、そのうちの80%は人間を介さずにデバイス同士で会話するようになると予測している。すなわち、400億個のデバイスが、人間の知らない間に自動的に働くことが可能になる。

 製造業においては、従来は、機器同士のコミュニケーションをとることが難しかった。なぜなら、各インターフェース間(ERP、MES、PLC等)で使用している言語が機器ごとに異なるからだ。
ERP:Enterprise Resource Planningとは、企業の持つ様々な資源(人材、資金、設備、資材、情報など)を統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法。また、そのために導入・利用される統合型(業務横断型)業務ソフトウェアパッケージ(ERPパッケージ)のことである。
 MES:Manufacturing Execution Systemとは製造実行システムと呼ばれ、工場の生産ラインの各部分とリンクすることで、工場の機械や労働者の作業を監視・管理するシステムである。
 PLC:Programmable Logic Controllerは、リレー回路の代替装置として開発された制御装置である。

前述のSiemensはこの機器同士の標準化を狙っている。

 近年は、IT技術と機器の自動化技術の発展によって、IT技術と自動化技術は切っても切り離せないものとなった。ERPやMES、PLCなどを一貫して同じ言語で統一し、それぞれのインターフェースをスムーズに接続できるようにしている。実際にドイツでは、Industry4.0をキーワードとして、製造業におけるスマート化が進んでいる。

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 ドイツの南東に位置するAmberg市で稼働するSiemens社の工場は、IoTを活用することで高度な自動化を実現している。産業機械を製造しているこの工場では、生産プロセスの75%が自動化されており、人間からの支持を受けることなく機会が部品を集めて製造を進めて行く仕組みである。具体的には、ICタグRFID)により、製品ごとに製造工程がリアルタイムで管理されており、製造工程におけるあらゆる情報(はんだ付けの温度、基板上の部品の配置、製品検査の結果など)が生産ライン上の機械同士で共有されていく。

 このような、多くのデバイス、ソフトウェアが絡んでくる状況の中で、非常に重要になってくるのが、システムインテグレーションである。ここで言うシステムインテグレーションは、ビジネスをする際の様々な構成要素をデバイスやソフトウェアをベースに統合することを意味する。ここでは、システムインテグレーションが成功の鍵になることを「リソースレボリューションの衝撃」に記載のGEの事例を用いて紹介する。
 2012年、GEは省エネ型温水器の製造を、中国からケンタッキー州ルイビルに戻した。輸送コストを削減し、シェールオイルとガス革命による国内の電力料金の下落に乗じ、注文から国内配送までの時間を短縮することが狙いだった。それまでは中国からアメリカへの輸送に4週間、そのうえ税関を通すのに1週間かかっていた。今では工場から倉庫まで30分で到達する。中国で生産していたときには、GEのデザインエンジニアはただ仕様書を書くだけで、製造は外出先に丸投げしていた。
 内製に戻ると、GEのデザイナー、エンジニア、製造エキスパート、工場作業員、販売とマーケティングのスタッフがひとつになった。それまでのデザインは銅管が絡み合い、溶接の難しい箇所が多く、それが信頼性とメンテナンスの問題を引き起こしていた。GEはデザインを根本から見直した。その過程で、材料費を25%削減し、中国で10時間かかっていた製造時間を2時間に短縮した。人件費は中国よりもはるかに高いが、国内製の温水器は中国製よりも2割近く小売価格が安い。品質も向上した。複雑な溶接がなくなり、保証期間中の修理数も減った。デザインと製造が統合されたアプローチで早々に成功を収めたGEは、8億ドルを投資してルイビルの家電工場を拡大しようとしている。 

 IoTが行っていることは、現実世界で起きていることをデータ化し、それをヴァーチャルの世界で最適化し、その結果を現実世界にフィードバックすることであると思う。この「最適化」と限られた資源の有効活用は、非常に相性が良い。電力等が特にそうだが、わずかなエネルギー効率の上昇が、莫大なコストカットをもたらすことがある。このようなテーマから目が離せない。
 「最適化」というテーマは「リソースレボリューションの衝撃」で多く取り扱われているので、また次回取り上げたいと思う。 


参考文献:
・リソースレボリューションの衝撃 ステファン・ヘック プレジデント社 
・IoT Analytics "Will the industrial internet disrupt the smart factory of the future?" 2015年3月19日
・米国における「ものづくりとIT」に関する取り組みの現状 八山幸司 JETRO/IPA New York