ミスを防ぐために、まずするべき1つのこと
この命題はおそらく僕だけでなく、多くの人にとっても重要な命題であると思います。
このような時に、1つのサポートとなる本があります。
その本のタイトルは、
「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」です。
結論としては、重大な局面で正しい決断をするためには、タイトル通り「チェックリストを使おう」ということです。
しかし、そのシンプルな結論に至るまでには、しっかりとした理由があります。
まず、どうして僕たち人間は失敗してしまうのか、ということを考えます。
失敗の原因について、1979年代にサミュエル・ゴロビッツとアラスデア・マッキンタイアという2人の哲学者が考えていました。彼らが言うには、僕たちが行うミスは多くの場合、「無理」が原因であるとのことです。たしかに、僕たちは、この世界の大部分を理解することも、それに対して影響を及ぼすこともできません。科学技術の助けを借りても、僕たちの肉体と精神には限界があります。さらに、人間は全知でも全能でもないので、どうしても無理なことがあります。
一方で、高層ビルの建設、大雪の予知、心筋発作や刺し傷の患者の治療など、僕たちができることもたくさんあります。そして僕たちが何かをできる領域では、失敗の原因は2つだけだ、とゴロビッツとマッキンタイアは言います。
1つめが「無知」です。
科学は発達しましたが、わかっているのはまだほんの1部にすぎません。建設できないビル、予知できぬ大雪、治せない心筋梗塞など、私たちが知らないことはまだまだ多いです。
2つめが「無能」です。
これは、正しい知識はありますが、それを正しく活用できない場合のことを言います。設計ミスで崩落する高層ビル、気象学者が予兆を見落とした大雪、凶器が何だったかを聞き忘れることなどがこれにあたります。
人類の歴史の大半では、「無知」が一番の問題でした。その最たる例が病気です。ほんの少し前までは、病気の原因や治療法などはほとんどわかっておらず、人間は病気にされるがままでした。14世紀にペストがヨーロッパで大流行したときも、それは神の怒りなどと言っている人たちも多くいましたが、まさか小さなノミがペストを広げていたとは誰も知りませんでした。
しかし、ここ数10年で、「無知」と「無能」のバランスは驚くほど大きく変化してきました。「無知」については、今では僕らはググることで即座に知識を得ることができるので、昔と比べると充分に対処できると思います。一方で、「無能」は「無知」に負けないくらい重要な問題となってきました。その最も大きな要因としては、世の中の複雑性が増したことが挙げられます。知識と技術はどの分野でも驚異的に発達しているため、その分だけそれらを使いこなすのがますます難しくなっています。例えば、弁護士がミスで訴えられる件数は、2004年から2007年の間に36%も増えたそうです。その多くが日付の間違いなどの単純な手続き上のミスと、法律の適用ミスだったとのことです。また、ソフトウェア設計の欠陥、銀行の経営悪化なども単純なミスが原因となっていることが多いです。これは大量の知識を必要とする複雑な分野では共通してみられる問題です。
複雑性が増し、「無能」のウエイトが大きくなっていく中で、ミスを防ぐための対処法として挙げられるのが、「チェックリスト」を作成することです。
なぜなら、人間の記憶力と注意力には限界があるためです。複雑な情報を頭の中にだけ抱え込むのにはリスクがあるので、確実に注意すべきことはリストアップするなどして、一人の人間の頭の外に「見える化」しておく必要があります。
本書の中で、実際にチェックリストを使用して効果があった例としては、手術、爆撃機の操作、高層ビルの建て方、災害への対処法などが記載されています。どれも非常に重要な仕事で、ミスが許されません。
僕は、「無能」を理解し、チェックリストを作成することについて非常に共感 しています。日常業務で、多くの情報をインプットしていますが、肝心な時にその情報を使いこなすことが出来ず、後悔することが多々ありました。
そこで、自分がミスをしないため、以下のチェックリストを作成しました(入社1年目に作成したものです)。
簡単なものではありますが、このチェックリストはプロジェクトを開始する際のチェックリストです。
プロジェクトチェックリスト
プロジェクト開始時
・プロジェクトの目的を理解したか。自分の言葉で復唱できるか。
・過去の報告書等を読んだか
・過去の報告書中の不明な言葉は調べて理解したか
・定義が必要な箇所を特定し、定義を行ったか。
・インプット・アウトプット内容を構造化したか
・指示の目的や背景を理解したか
・指示を受けた段階で、自分がこれから行うことの確認をその場でしたか。
・指示を受けた時に、目的・レベル感・期限を確認したか。
インプットをする際
・インプットする情報の種類は十分か。多面的に情報を集められているか。
・インプットするときのフレームワークを用意してあるか。
・インプットする目的を持っているか。
アウトプットを提出する際
・アウトプットの目的を確認したか
・アウトプットは具体的な情報が入っているか。
・アウトプットの全ての要素についてReally? Why? So what? の関係を確実に説明できるか
・これ以上付け足すものはないか
・フォーマットは正しいか
実際に、このようなチェックリストを作成することで、ミスが劇的に減りました。また、チェック項目を毎回考える必要もないので、その分の時間を、今度は論点についてより深く考えるために使えるようになりました。
このようにチェックリストを使うことによって、アウトプットの質を高めることができました。
ついでに、僕が学生時代に研究発表をする際に作成していたチェックリストも以下に書いておきます。
学生時代に作成した理系向けのチェックリストですが、今でもプレゼンをする時には使えると思います。また、文系の方であっても、必要な部分だけでも充分使えるかと思います。
理系プレゼンテーション チェックリスト
・初めて見る人にとって、話の全体像がわかるようになっているか
・問題が明確になっているか
このようなチェックリストを作成しつつ、できることならば頭の中にチェックリストを常に持っておきたいものです。
そして、チェックリストに該当するものは瞬時に判断して、アイデアが必要な所や、綿密な分析やデータ収集が必要な所に時間を使っていきたいところです。
ただ、自分ができていると思っていることでも、油断しているときにミスが出てきます。チェックリストができたからといって安心せずに、日々チェックリストを進化・更新させて、より質の高い結果につなげていくことが大切だと思います。