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テスラの秘密

今回はテスラモーターズ(以下、テスラ)の技術について掘り下げる。

テスラは、イーロン・マスクが環境問題への関心から、電気自動車に興味をもったことから始まっている。電気自動車と今までの自動車の一番の大きな違いは、駆動力の源が電気モーターか内燃機関かである。電気モーターのエネルギー効率は95%であり、これに対して最先端の内燃機関のエネルギー効率は40%である。電気モーターのエネルギー効率がいかに良いかは言うまでもない。

 

マスクはゼロから自動車を考え直した。バッテリーを低い位置に置き、重心を地面に近づけることで、ハンドリングと安全性を向上させた。重たいエンジンを前方から取り除いたことで、ハンドリングはさらに向上した。それまでは前部と後部の重量の違いが、安全性を損ねていたからだ。

デザインについて考えることによって、マスクは廃棄物の削減についても考えることができた。モーターは小さく、発熱も少ないため、複雑な水冷システムは必要なく空冷が可能になる。トランスミッションも、動力を駆動輪に伝達するためのデバイスも、いらなくなる。つまり、内燃機関を電気モーターに替えることで、エンジン冷却も、トランスミッションも、ボンネットの下のほとんどのものがいらなくなる上に、加速やハンドリングや安全性は向上するというわけだ。また、メンテナンスの手間も減る。トランスミッションクラッチも点火プラグも必要なく、他のパーツもほとんど摩耗しないテスラは、メンテナンスを保証の条件としない、はじめての自動車になった。


電気モーターならではの利点に加えて、マスクは消費電力を抑えるために隅々まで工夫を凝らした。最先端のソフトウェアを開発して、充放電やバッテリーパックの温度を制御し、効率を最大化するよう充電レベルをコントロールして、バッテリー寿命を格段に伸ばした。8年間の走行データを使って最高のパフォーマンスを追求し、その航続距離はライバル車をはるかに上回っている。EPA(米国観光保護庁)はテスラの航続距離を、モデルによって320~400キロメートルと評価している。バッテリー寿命を損ねないための推奨レンジはその90%とされるので、本当の航続距離は290~350キロメートルということになる。 

 

テスラはパソコンと同じようにソフトウェアをアップデートさせていくことで車を進化させてきた。

2012年からソフトウェアの無線アップデートサービスを開始し、約3ヶ月ごとに機能を進化させている。2014年9月のバージョン6.0では、過去の走行履歴に基づいた車高の自動変更や、携帯電話とのカレンダー同期機能を追加した。2015年1月のバージョン6.1では、先行車両の追従時の自動加減速、正面衝突の可能性がある場合の警報機能、ハイビーム・ロービームの自動切り替え機能を追加した。さらに、2015年3月のバージョン6.2では、次の目的地まで走るために必要な充電が完了した時点でのスマホお知らせ機能を搭載、ルート検索時に充電ステーションを通るようなロジックへの変更、最高速度の変更、個人情報保護モードの搭載などを実施した。

2015年10月には、「モデルS」シリーズ向けに、自動運転機能を追加したバージョン7.0のソフトウェアの配信を開始した。縦列駐車も自動で可能だという。新ソフトの自動運転機能では、車線内の自動走行が可能となるほか、方向指示器の表示に触れれば自動で車線変更してくれる。また、クルーズコントロール機能によって周囲の車両の速度を検知し、適切な走行速度を自動的に保つ。さらに、駐車可能な場所を探してドライバーに知らせ、縦列駐車も自動で行うという。

 

さらにテスラは人工知能を使った高速道路走行向けの運転補助ソフトの配信を始めている。週に約1回のペースでソフトが更新され、多くの利用者が運転すればするほど知見が集まりソフトが賢くなっていく。道路上の車線が消えたり、工事などで変更されたりした場合に自動で修正したり、過積載の車とは距離を取るなど様々な機能を加えている。

 

 

電気自動車の最大の課題はバッテリーだ。バッテリーの航続距離は短く、ガソリン車と同じ距離を実現しようと思えば、当然ながら莫大なコストがかかる。320キロメートルの航続距離に到達するには、バッテリーに約2万ドルかかる。その上充電には、ガソリンを満タンにするよりもはるかに時間がかかる。AC充電なら4時間から12時間、DC充電でも30分から2時間はかかってしまう。

しかし、この問題はすでに解消されつつある。バッテリー価格は2008年から2013年の間に、キロ時間あたり1000ドルから400ドルに下がり、技術がさらに進化すれば、2010年代の終わりには、150ドルを下回る可能性も高い。2万ドルの電池パックが5000ドルになるかもしれないということだ。そうなれば、性能と効率から考えて、すべての自動車がバッテリーを搭載してもおかしくない。充電時間に関しては、スーパー充電ステーションなら30分で50%は充電できるまでになっている。

 

バッテリーについては、テスラはパナソニックと組んで開発を行っている。洗車機のようなドライブスルー方式でバッテリーを90秒で取り換えられるような技術を搭載するようだ。使用済みのバッテリーは、エネルギー密度よりもコストが重視される送電系や家庭の据え置き型の蓄電池に利用できる。

 

また、リチウムイオン電池に代替する全固体電池についても注目されている。全固体電池は、バッテリーの高出力化と高容量化を実現することが出来る点が魅力である。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が低いため、航続距離は約200キロメートル程度である。高いエネルギー密度を持つ全固体電池を使用すれば、一度の充電で約700キロメートルまで航続可能距離は伸びる。さらに、リチウムイオンではどうしても数時間かかっていた充電時間も数分へと大幅に短縮できる可能性がある。
 また、既存のリチウムイオン電池に使用される有機系電解液は燃えやすい性質を持っているため、揮発や液漏れによる発火や、加熱による変形や膨張、爆発への対策に大きなコストを払っている。しかし、液体材料を使わない全固体電池では、このような懸念を払拭することができる。

 安全性が強化されることで、使用可能な範囲も格段に広がる。様々な形状への加工も可能となるため、シート状の電池を電気自動車に搭載し、車内スペースを確保することも容易になる。生産にかかるコストも大きく削減される。液体を封入する必要がないため、従来のような頑丈な金属パッケージが不要となり、外装を簡略化して製造することができる。

 

 

シリコンにおきかえられるパーツはどんなものでも、ビジネスチャンスになりうる。シリコン部品は銅線や継電器よりも消費電力がはるかに少なく、ムーアの法則に従ってコストも激減していく上に、ソフトウェアによって性能を上げることもできる。近代的な航空機はいずれも油圧ラインやバルブを捨てて、純粋な電気信号による制御に代わっているが、多くの機体には、フットボールほどの大きさの銅の塊のような重い電気機械式のコイルが使われている。次世代航空機のプロトタイプに搭載されるシステムでは、こうした継電機器がすべて半導体スイッチに置き換えられる。スイッチなら空間も重さも軽減できる。また1機あたりの必要電力が4割ほど削減される。そのうえ、ソフトウェアによってスイッチを制御できるため、性能もあがる。半導体リレーなら、電圧と電流の微妙な変動を感知し、差し迫った不具合や過負担を事前に警告してくれる。また、次世代の制御システムは、パイロットの活動やフライトプランに応じて必要電力量を予知できる。上昇にフルパワーを要する場合には、環境制御やその他の不必要なシステムをパワーダウンして、最大出力を要する時点で電力需要の急上昇を避けることができる。

 

半導体を用いたデバイスをしようするようになると確かに省エネ省スペース化になるが、SiC等の次世代パワー半導体を用いると、さらに省エネ、省スペース化が進む。省エネについては抵抗が少なくなることで無駄な電力消費がなくなるからであり、省スペース化については、従来のSiは耐熱が約200℃までであるのに対し、SiCはその倍以上の温度まで耐えることができ、従来のSiで必要であった冷却装置が不要になるためである。電車に利用された例では、1/10に省スペース化したものもある。

トヨタ自動車では、SiCによるパワー半導体を開発している。このSiCパワー半導体はハイブリッド(HV)車などのモーター駆動力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)に採用する予定であり、現在のシリコンパワー半導体と比べ、HVの燃費は10%の大幅向上、PCUは1/5の小型化を目指している。SiCパワー半導体には、電流を流すときの抵抗や電流を流したり止めたりするオン・オフ時(スイッチング)の損失が小さいという特徴があり、高周波化しても効率的に電流を流すことが出来る。この性能を十分に引き出すことにより、PCUの体積の約40%を占めるコイル、コンデンサの小型化が可能になり、将来的にPCUの体積は現行型比1/5を目指している。

 

 

半導体バイスの導入によって、機材の一部がソフトウェアで制御されるようになれば、フィードバックの循環が比較的簡単になり、成功と失敗を機材が「学び」つづけ、性能を最大化し続けられる。GEは昔からジェットエンジンでこれを行ってきた。エンジンに組み込まれたセンサーが、性能を司る主要要素をモニターし、着陸準備に入ると事前にメンテナンス情報を無線で伝達することも可能だ。また、メンテナンスの効果をモニターし、航空会社の費用と時間を節約しながら、出力と燃料効率を最大化するようにシステムを調整している。

 

テスラは今後もハード面とソフト面で進化を続ける。省エネを実現しながらも、インフォテイメントや自動車線変更などの機能を拡大し続けている。デザインやソフトウェア技術は自社で確立しつつ、バッテリーなどのハードは他社と共同で開発・製造を行うなど、自社で注力する分野のバランスをうまくとっているため、効率的・効果的なバージョンアップが今後も期待される。