Innovation Tips

Innovation, Data Science, Research, Business, etc.

人工知能と経済

 

まとめ 

  • 人工知能(AI)、3Dプリンター等の進化がさらに進み、人間の仕事を奪うことにつながっていく。
  • 技術的失業のセーフネットとしての策がベーシックインカム
  • AI等の技術は、人間に失業をもたらすが、長期的にはAIが経済自体のバランスをコントロールする部分的計画経済をもたらす可能性もある。

 予測を超えた、技術の進化
  

 最近、人工知能(AI)の進化が目覚ましい。グーグルの研究グループが開発した囲碁ソフトAlphaGoが今年3815日にかけて行われた五番勝負で、韓国の李世ドル九段に勝利した。通算成績は4勝1敗だった。 
囲碁ボードゲームの中でも、最後の砦とされてきた。チェスでは、1997年にIBMが開発したスーパーコン ピューター「ディープブルー」が、当時の世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ氏に勝利し、将棋ではコンピュ ータとプロ棋士が戦う「電脳戦」が行われ、4年前にコンピュータがプロ棋士を上回った。囲碁は19×19の格子が描かれた盤面に碁石を指していくが、展開しうる指し手の数は、10360乗にまで至っている。

囲碁においては、AIがプロ棋士に勝つには厚い壁があると言われており、一説ではあと5年以上かかると言われていたが、その厚い壁を軽々と乗り越えてしまった。AIの進化は、僕らが思っている以上に、はるかにスピードアップしている。
 

  AIに加え、3Dプリンターの登場や、莫大な数のセンサーを設置する計画など、「自動化、最適化」のためのインフラが発展を遂げている。例えば、3Dプリンターで、自動的に車のボディ・部品を作成したり、家まで作成できたりする。

*3Dプリンターで作成した車 http://japanese.engadget.com/2015/11/15/3d-lm3d/
*3Dプリンターで作成した家 
http://wired.jp/2015/09/24/giant-3d-printer-builds-houses/

 センサーに関しては、社会に膨大なセンサネットワークを張り巡らせることにより、地球規模で社会問題の解決に活用しようとする“Trillion Sensors Universe”という構想がある。具体的には、大量のセンサーを安く作ることによって、そのセンサーをばらまき、リアルの世界でのビックデータ解析をすることができる。これによって、例えばインフラ業界では、橋や建物などのメンテナンスに必要な人数を削減出来たり、従来はメンテナンスをすることが難しかった箇所にセンサーを設置することによって、メンテナンスの質を高めたりすることができる。

*
トリリオンセンサー 
http://iot-jp.com/iotsummary/iotbusiness/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%EF%BC%88trillion-sensors%EF%BC%89/.html


技術的失業をもたらすAI

 このような「自動化、最適化」が行われていくと、ますます人間の仕事が減ってくる。昨年2015年に野村総合研究所とオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授らが発表した研究では、日本で働いている人の約49%の仕事は、1020年後にAIに代替されると発表された。もしかすると、比較的ブルーカラーの仕事がAIの搭載されたロボットに代替されるというイメージをお持ちの方も多いかもしれないが、今回の研究の成果では、「公認会計士」「弁理士」「司法書士」といったホワイトカラーの仕事も、約80-90%の確率でAIによって代替されると試算されている。

*日本の労働人口49%が人工知能やロボット等で代替可能に

601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~
https://www.nri.com/~/media/PDF/jp/news/2015/151202_1.pdf

 

 ホワイトカラーの仕事がAIに代替されるという事象は、現在でも起きている。
例えば、法律文書のレビューだ。アメリカにおいて、
1980~1990年代に人手で行った法務文書のレビューを、eディスカバリーというソフトウェアを使って再分析したところ、人間の精度はわずか60%であったとのことだ。これは、人手がかかっていることに加え、人間の精度が悪いため、ソフトウェアに変えてしまった方が良い仕事の典型だ。
このように、ホワイトカラーの仕事もAIによる代替に脅かされている。 


それでは、仕事がなくなっていく社会で、人間が生きていくためのセーフティネットは何になるのだろうか。

この問いに対する答えの1つがベーシックインカムであると思う。

 

 ベーシックインカムについて


 ベーシックインカムについて、以下簡単に説明する。

         
ベーシックインカムとは

 ベーシックインカムとは、最低限の所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するというものである。

 ベーシックインカム 200 年近い歴史があり、トマス・ペイン、ジョン・スチュアート・

ミル、ミルトン・フリードマンなどの著名な経済学者が提唱。18 世紀後半はフランス革命

アメリカ独立戦争産業革命などが発生し、歴史的な転換点であった。様々な民衆の権利

追求の動きの中で、トマス・ペインは権利としての福祉を主張した。

 

■メリット

 メリットとしては、貧困対策、少子化対策社会保障制度の簡素化が主に挙げられる。また、これによる人員削減、利権の縮小、小さな政府の実現が可能である。

 

■デメリット

 デメリットとしては、労働意欲の低下(向上するという説も有り)、財源の確保、また在住外国人に対しても同様に支給した場合移民が殺到し財政破綻する可能性がある。


■専門家の意見
慶應義塾大学大学院教授 岸博之

 財源の面からはかなり厳しいと言わざるをえない。例えば、年金生活世帯(夫婦2人)の平均消費支出は約24万円/月であるため、毎月12万円を全国民にベーシックインカムとして支給すると仮定したら、年間で173兆円の財源が必要となる。社会保障給付費(年金、医療、介護・福祉などの合計)が117兆円であることを考えると、とても賄えない。


経済評論家 山崎元
 年金・生活保護雇用保険・児童手当や各種控除をベーシックインカムに置き換えることで、
1円も増税することなく日本国民全員に毎月に46000円のベーシックインカムを支給することが可能である。具体的には日本の社会保障給付費は平成21年度で総額998500億円であり、ここから医療の308400億円を差し引くと69兆円となる、これを人口を12500万人として単純に割ると月額46000円となる


■各国の状況

・ スイス

成人国民に月額2500スイスフラン(30万円)、未成年者には月額625スイスフラン(75000)ベーシックインカムを給付するかどうかを決める国民投票20166月に行われる予定。制度導入に伴って既存の社会保障制度の一部を打ち切りベーシックインカムに一本化する。国民投票が可決されると、スイスでは就労の有無にかかわらず月額30万円が支給されることになる。


*働かなくても毎月30万円もらえる所得保障制度導入の是非を決める国民投票がスイスで行われることに
http://gigazine.net/news/20160201-switzerland-national-wage/


・ オランダ

オランダのユトレヒト20161月から試験的に導入。

 

           フィンランド

2015年総選挙でベーシックインカムを公約とする中央党が第一党になり、中央党、フィン人党、国民連合党による保守・中道右派連立政権が誕生しベーシックインカム導入実験の実施に向けた準備が進んでいる。

           ニュージーランド

ニュージーランド労働党ベーシックインカムの導入の政権公約化で検討入り(2016314日)

以上のようなベーシックインカムが実現されると、AIによる技術的失業となった人達に対する、セーフティネットを用意することができる。もちろん賛否両論あるが、仕事がなくなる社会における解決策の1つになり得ると思う。
ただ、AIは仕事を奪うが、それは仕事の「自動化、最適化」を行うからである。それでは、AIが経済自体の「自動化、最適化」を行うとどうなるだろうか。 

 

AIによる計画経済の復活
 

 僕はAI等のソフト面とセンサーやプロセッサのハード面の進化がさらに進み、処理可能データ量・速度が増えてくると、AIによる部分的計画経済も有り得ると思う。

 計画経済とは、経済の資源配分を市場の価格調整メカニズムに任せるのではなく、国家の物財バランスに基づいた計画によって配分される体制だ。つまり、国家が需要と供給を決めて、うまく調整して経済を回していこう、というものだ。

 この原型を作ろうとしたのがソ連であった。しかし、需要などの様々なデータをとり、複雑な経済の実態を把握して調整することは難しく、無理があった。その結果として、このソ連の計画は失敗に終わった。

 上記において、今後は「自動化、最適化」がさらに進むと述べたが、もしかするとAI自体が経済そのものの調整役になるかもしれない。国家単位でヒト・モノ・カネについての情報をコンピュータが全て把握し、AIが分析し、その結果を基に最終的な意思決定を国が行うなどといったことが起こり得る。現在では、市場経済としてマーケットが動いているが、AI市場経済を分析し、次に起こり得る市場の変化に対して、最適な解決策を人間に提案することが可能になってくる。つまり、AI市場経済を分析した上で、市場が物・サービスとお金のバランスをうまくとれるような経済、まさに計画経済を提案してくれるのである。最終的な意思決定は人に任せるため、部分的計画経済とでも言っておこうか。

 
 このような「マネジメント」の部分にも、実は既にAIが進出している。人工知能技術で企業の経営課題解決を目指す、日立製作所の「Hitachi AI Technology/H」だ。これは、人工知能技術を活用して、ビジネスに関連する大量かつ複雑なデータの中から、組織の重要な経営指標(KPI)との相関性が強い要素を発見し、革新的な業務改革施策の立案を可能とするものである。

 日立の例は、企業のマネジメントの部分に人工知能を用いたものであるが、現在の人工知能の爆発的進化を鑑みると、今後のAIは人間の意思決定をさらにサポートしていくと考えられる。またこのサポートも企業での意思決定に留まらず、自治体やさらには国家単位での意思決定に関わる可能性を秘めている。国がどこからどれだけお金を集めてきて、どのように配分すべきかの案を複数提案してくれるかもしれない。そうなると、もちろんベーシックインカムを含めた議論も出てくる。今後は、複雑に絡み合った世の中の問題に取り組む人間に、AIが新たなヒントをくれるだろう。