Innovation Tips

Innovation, Data Science, Research, Business, etc.

パクってもいいじゃないか。~「海賊のジレンマ」より~

かなり久しぶりの投稿です。

今回は最近読んだ本について、自分の考えを織り交ぜながら紹介していきます。
本の題名はタイトルにもありますが、「海賊のジレンマ」という本です。

パンク好きな加藤君(会社の同期)に薦められて読んだ本ですが、以外にも、僕が関わってきた「イノベーション」にも接点があり、面白かったので紹介します。

■超要約
一言でいうと、人は「パンク」を社会の敵として扱う一方、その「パンク」から生まれたイノベーションの恩恵を受けている、ということです。

■パンクとは
パンクとは、個人の自由と反体制主義の視点をもった概念です。
典型的な思想として、DIY主義・不服従・反権威主義があります。

■パンクの起源
パンクは1970年代中頃、アメリカとイギリスで生まれました。
ちなみに世界最古のヒップホップは 川上音二郎オッペケペー節です。
オッペケペー節の内容は和製ラップです。
その時代、川上音二郎は逮捕されずに自分の主義主張(自由民権運動)を訴えるにはどうすればいいかを考え、その結果「芸」を利用することを思いつき、オッペケペー節を作りました。
さらにちなみにラップの起源は、黒人が受けていた人種差別への不満です。
このような起源は、パンクの成り立ち(反体制主義)と似ていると思います。

■パンクの基本的な考え方
既に上の方に書きましたが、パンクには基本的にDIY主義・不服従・反権威主義があります。
実際にパンクの考え方として行われているのが、音楽のREMIXです。
REMIXとは、既存の複数の曲を組み合わせて新しい曲を作ることです。
はっきり言ってパクリです。
これが海賊行為というわけです。
ここで言う海賊とは、「パクリ・窃盗」を基本的な考え方として、以下の行為を含みます。
 ・街角で海賊版DVDを売ったりすること(よくテレビとかネットで見るやつ)
 ・海にいる人を襲ったりすること(ルフィも海賊やん)
 ・言論の自由の擁護者(言いたいことを言う)

■パンクから出てきたイノベーション
パンクの考え方から色々なイノベーションが生まれてきました。
例えば、録音された音楽やラジオ、映画、ケーブルテレビなど、知的財産権が関わるほどんどすべての産業の起源をたどれば、その始まりには、海賊行為が関わっていました。

映画の例でパンク由来のイノベーションを説明します。
まず、映画撮影技術は誰によって発明されたでしょうか。
そう、これはかの有名な発明王トーマス・エジソンによって発明されました。
ただ、この発明王エジソンは映画撮影技術を発明したあと、その技術をつかって映画をつくる人々にライセンス料を請求するようになりました。(そりゃお金とりますよね。)
これがきっかけとなって、ウィリアムという名前の男を筆頭として映画製作の海賊軍団が誕生しました。
彼らはニューヨークを離れて、当時は未開の地であったアメリカ西部へ行き、この地でエジソンの特許が切れるまでライセンスなしで映画を作りつづけました。
そしてその結果、その映画は大ヒットしました。
さらに彼らの海賊映画が時効で合法となっても、この海賊軍団は自分たちが新しく発見し、定着した西部の街で、映画を作りつづけました。

その西部の街が、今のハリウッドです。

ちなみにウィリアムのラストネームは何でしょうか。

ずばりFOXです。
あの映画会社の20世紀フォックスを作ったのはウィリアム・フォックスです。
彼がいなければ、「猿の惑星」や「アバター」は生まれなかったかもしれません。

しかし、もし著作権法がこうした海賊たちを途中で制していたら、今のアメリカの巨大な文化、いや世界の巨大すぎる文化はなかったでしょう。
しょぼい質や量の映画やテレビ番組しか見られなかったでしょうね。

結果として、海賊行為が重要な意味を持っていたことは明らかです。
「海賊のジレンマ」には以下のような記載があります。

海賊たちは自分たちにとってアンフェアな規制を拒むことで、無から産業を作り出した。社会は伝統的に海賊たちにもある程度の活動の余地を与えてきたし、彼らが私たちの生活に価値を付加してきたことも認めてきたからこそ、海賊と社会の妥協点を見出すことができた。それが法として正式に記され、結果として新しい産業が開花することになった。

これらの海賊行為は取り締まるべきなのか、それともそのまま放置して自分たちもその利益を受けるべきなのか、これが「海賊のジレンマ」です。

海賊行為をする人たちの主張はこうです。
「特許や著作権イノベーションを阻害する。」

本の中では、規制によって縛られないことで、古代から現代まで様々な作品が出てきたと言っています。

現代のポップカルチャーの中で最も影響力があるのがリミックスだ。まったく新しい発想だと思う考えが、実は他人の考えの焼き直しだったということはよくある。旧誓約書に書かれている次の言葉はそれをわかりやすく示している。「かつてあったことは、これからもよくあるであろう。かつてなされたことは、これからもなされるだろう。この太陽の下、新しきものは何もない」。そして、旧約聖書だってもちろん例外ではない。たくさんの学者が、旧約聖書の話は、古代メソポタミア文明の中心地である現在のイラクに広まっていた異端の宗教の神話が元になっていると考えている。だからこそ、ユダヤ教聖典トーラや、イスラム教の聖典コーランにも似たような神話が載っている。 

現代のリミックスは、法的には限りなくブラックに近いグレーもしくはブラックです。
著作権法上の規制によって、「ここ10年で最も強力なアート」とも言われたリミックスが取り締まられるという現実が起こっているのです。

パンクの人たちは、今の著作権法を時代遅れだと考えています。
もっと既存の音楽などのコンテンツを再利用可能にするべきだと訴えています。

その訴えもあってか、実際には法律が変わろうとしています。
クリエイティブ・コモンズという新しい著作権ライセンスの形ができ、この中では、合法的に自分のリミックスをつくることができます。

 本の中にある一言が、今の現実を物語っています。
 
「時代遅れの著作権法こそが、リミックスされるべきだろう。」


■海賊vs著作権法
ここから、「海賊のジレンマ」の書籍を離れて、「著作権法」の主張を聞いてみましょう。
まず、著作権法のそもそもの方目的は何でしょうか。
以下、著作権法第1条です。

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権法の目的は文化の発展に寄与する点にあります。
つまり、何が公正な利用であるかは「文化の発展に寄与する」という法目的に照らして決めることになります。
文化発展に寄与するためには優秀な文化的所産が数多く創作され、それが国民に伝達されなくてはならず、そのためには著作者等の努力に充分に報いなければならない一方で、その利用コストが高すぎて国民が利用できなければ文化発展に寄与できません。

これは、著作者の保護と、その文化的所産を享受する国民の利益を、文化発展へ寄与するかという天秤にかけています。
ここで大事になってくるのが、文化の発展とは何かということです。
今爆発的なヒットになっているポケモンGOについて考えてみると、作成した会社のNIANTICポケモンというキャラクターを勝手に使用して、自分たちだけてポケモンGOを作っていたら、それは確実に許されないという感覚は、なんとなく分かると思います。
その一方で、例えばネット上に落ちている画像を仮に学校の授業ですら使えないとしたら、教材の作成も難しくなります。
その結果として文化の発展を妨げることも出てくるのではないでしょうか。 

このような「文化の発展」に対するとらえ方は、僕にとって今後の課題です。
特許法などの産業財産権法であれば、「産業の発達」に寄与することを法目的としており、指標が経済的になってわかりやすいのですが、「文化の発展」は指標としては難しいです。

この難しい指標が出てきたところで、今日のところは一旦議論をストップします。
まだまだ僕の勉強が足りないので、これからは「文化の発展」について、深堀り調査・思考を進めていきたいと思います。

ではでは