Innovation Tips

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イノベーションの変遷

今回のテーマは「イノベーション」です。
イノベーションって結局何なの?分かりそうだけど、やっぱいよく分からないといった方でも理解できるように書きました。
それでは、イノベーションの歴史を紐解いていきましょう。

イノベーションは、1911年に、オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターによって、初めて定義されました。シュンペーターイノベーションを、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することと定義しました。シュンペーターは「新結合」のイノベーションの対象領域を次の5つの場合としています。
 
① 新しい財貨の生産
② 新しい生産方法の導入
③ 新しい販路の開拓
④ 原材料の新しい供給源の獲得
⑤ 新しい組織の実現
これに対し「もしドラ」の中でも有名なドラッカーは、イノベーションとは、「技術のみのコンセプトではなく、社会・市場に変化をもたらすもの」として定義しています。そして、このイノベーションは以下の7つの領域を対象としています。

 

① 予期せぬこと、すなわち予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ出来事
② 現実にあるものと、かくあるべきものとのギャップ
③ ニーズがある
④ 産業と市場の構造変化
⑤ 人口の変化
⑥ 認識の変化、すなわちものの見方、感じ方、意味の変化
⑦ 発明発見による新知識の変化

 

最初の4つは組織の内部あるいは産業の内部の機会であり、残りの3つは組織や産業の外部の機械である。そして、これら7つのイノベーションンの機会は互いに重複する。
このようなシュンペーターによるイノベーションの対象領域としての「5つの場合」と、ドラッカーによる具体的な方法としての「7つの機会」は矛盾するものではない。どちらかというと補完的なものになっている。)
これまでは、イノベーションを抽象的な概念としてとらえてきており、研究というよりも哲学に近い形でした。しかし、1969年代からイノベーション研究が本格的に行われていきます。
イノベーション研究の中では、Sumner MyersとDonald G. Marquisが書いた、”SUCCESSFUL INDUSTRIAL INNOVATIONS”(1969年)が先駆けとなる書籍です。
残念ながらこの書籍は日本には存在しません(僕は、大学の先生のつてで入手しました)。
この論文では、イノベーションを「製品やプロセスの技術的な変化*」として定義されています。

*英語では、”Innovation” will here be definded broadly as the introduction by a firm of a technical change in product or process. と書かれています。


そして、イノベーションは1つの行動(Action)ではなく、システムとして成り立つことで初めて機能します。
具体的な行動をイノベーションのプロセスに沿って見ていきましょう。
最初に、認知(Recognition)の行動をします。
これは、何か問題があるな、という認識や、何かに使えるなという気づきを表しています。
次に、アイデアの醸成(Idea formulation)をし、そのアイデアで問題解決(Problem Solving)をします。
そして、その解決策(Solution)を形式化し、実際に広く活用されるようにします(Utilization and diffusion)。

 

ここでの定義では、イノベーションは「技術的な」変化として書かれています。
日本語でもイノベーション=技術革新と和訳されているように、経営学では特に「技術」に視点をおいてイノベーションを考えています。
この「技術」とは、一言で言うと、インプット(生産要素)をアウトプット(製品・サービス)へと転換する組織能力のことです。
具体的には、企業の提供する製品やサービス、またその技術に関連する活動(生産、物流など)で活用される理論的・実務的知識、スキル、人工物のことを指しています。
ただ、イノベーションは現在の経営学では、技術変化のみを表すものではなく、技術変化の結果として、製品・サービスが市場に導入され、それが消費者に受け入れられるまでのプロセスのことを言います。

つまり、イノベーションとは
① 技術の発見・発明
② 新製品・サービスの開発
③ 工程開発
④ 市場への導入
⑤ 技術普及
の各段階を含んだ広い概念ということになります。

 


イノベーションの3つの波
さらに、イノベーション研究は進み、様々な種類のイノベーションが生まれてきます。 
最近刊行された「ビッグバン・イノベーション」では、これまでの生まれたイノベーションを「3つの波」として整理されています。



 
1つめの波はインクリメンタル・イノベーションです。これは、企業が技術に投資を行い、従来的技術の延長線上にある技術レベルをじわじわと向上させる持続的イノベーションです。また、これはトップダウン型と言われています。

 

2つめの波は破壊的イノベーションです。これはハーバードビジネススクールのクリステンセン教授によって提唱されました。破壊的イノベーションは、一言で言うと、安価でシンプルな製品が、大企業等が席巻していた市場を破壊していくものです。
大企業等は持続的イノベーション(≒インクリメンタル・イノベーション)によって、製品の改良を続けていきますが、ある時点で製品の技術レベルが、顧客のニーズを越えてしまい、後から出てきた「安かろう、悪かろう」の製品が破壊的イノベーションによって、市場を駆逐されるような現象が起こります。
具体的には、従来のフィルムカメラの市場に、デジタルカメラが参入していき、今ではほぼ全てのカメラがデジタルカメラになった事例が挙げられます。

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出所:http://bizzine.jp/article/detail/111

(この破壊的イノベーションは、「ビッグバン・イノベーション」の中では、安い・機能が悪い製品が下から市場に参入してくると考えて、ボトムアップ型と言われています。)
 
初期のデジタルカメラは画質も悪く、重たく、バッテリー消耗も激しく、使い方も複雑で、また非常に高価であった為、旅行などの使用シーンに適しておらず、顧客ニーズに応えることが難しい状況でした。
そのため、フィルムカメラメーカーは、初期のデジタルカメラ潜在的な破壊的イノベーションに注意を払うことなく、既存顧客の声に耳を傾け、フィルムの発色性を高めたり、防水加工によって旅行シーンでの使いやすさを高めるなど、持続的イノベーションの改良に集中していました。
しかし、光学技術の進展やバッテリー技術の進展、パソコン・プリンタの一般家庭への普及、また、顧客が操作法を学習したことも伴い、破壊的イノベーションを押し上げる力が働き、急激にデジタルカメラへとパラダイムシフトが進みました。
フィルムカメラは、破壊的イノベーションに対抗する手段を持たなかった為、その市場シェアをデジタルカメラに奪われることになりました。
クリステンセン教授のイノベーションについての見解は資料としてまとまっています。(左記のリンク参照)
 
3つめの波は、ブルー・オーシャンです。
これは、まだ満たされていない新しいニーズに、製品やサービスの価値や特徴をうまく組み合わせ、新製品・サービスを提供するといったものです。
ブルー・オーシャン戦略とは、強力な競合とともに血みどろの争いをする場(レッド・オーシャン)ではなく、ライバルのいないフロンティア市場(ブルー・オーシャン)を探そうという戦略です。
「ビッグバン・イノベーション」なかでは、ブルー・オーシャンは上からでも下からでも来るわけではないイノベーションであり、サイドウェイ型と呼ばれています。
 
 この理論では、戦略キャンバスというマップを用い、個々の企業が既に採用している戦略を明確にすることによって、各企業がいまだ手をつけていないフロンティア市場を見つけ出すことができます。
 実際に、戦略キャンバスの横軸には「価格」や「品種」といった競争要素を用意し、個々の企業は縦軸にその程度をプロットします。
これらをつないだ線が「価値曲線」というもので、個々の企業の現在の戦略スタイルを表しています。
 これを業界内の競合企業と見比べることで、競争要素ごとの強みや弱み、戦略的空白部分が一目瞭然になります。そこで次のプロセスとして、4つのアクションという各競争要素を足し算引き算(「取り除いたり」「減少させたり」「増加させたり」「新たに付け加えたり」)することによって、ライバル企業が取り組んでいないフロンティア市場を発見します。
 
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ここで、ブルー・オーシャン戦略が、イノベーションの3つめの波として表現されていることに疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
なぜなら、ブルー・オーシャン戦略は「戦略」であって、イノベーションとは記載されていないからです。
ただ、シュンペーターによるイノベーションの定義では「イノベーションとは新結合である」とあり、新しいものを組み合わせたりするブルー・オーシャン戦略も1種のイノベーションに該当しそうです。

 

そして、今回の4つめの波が、ビッグバン・イノベーションとのことです。これは、トップ・ボトム・サイドの3つの方向から同時に襲来するイノベーションで、ほぼすべての顧客セグメントに対して製品・サービスを提供するものです。
トップ・ボトム・サイドの3つの方向から同時に襲来するというのは、よりよく、より安く、よりカスタマイズした製品・サービスが市場に投入されるということを意味しています。
ビッグバン・イノベーションについては後程(もしくは次回)説明します。
 
 

イノベーションの波から外れた「オープン・イノベーション

ただ、僕が感じているのは、このイノベーションの波の中に「オープン・イノベーション」が含まれていなかった違和感です。
「オープン・イノベーション」とは、自社だけでなく、外部のリソース(技術・アイデア・設備・サービス)を組み合わせ、革新的なビジネスモデルや研究成果、製品・サービスの開発につなげるイノベーションの方法論です。
これは、ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ助教授(当時)によって提唱された概念です。
従来は企業が独自に開発を行ってきた、いわゆるクローズト・イノベーションでしたが、製品開発競争の激化・コストカットの圧力などによって、外部と連携した製品・サービスの開発が増えてきました。
具体的な事例としては、P&GのConnect & Developというプラットフォームが挙げられます。
ここでは、会社の課題やニーズを公開し、外部からアイデアやシーズを募集しています。
この取り組みによって、外部のリソースから生まれたイノベーションの割合は、2001年の5%から2010年には50%にまで上がったようです。

 

 



このように、オープン・イノベーションは比較的メジャーなイノベーションの方法論なのですが、3つの波には入らなかったようです。
入らなかった理由として僕が思うのは、「オープン・イノベーション」はただのバズワードであり、かつ方法論であるため、イノベーションが起こる現象(ここでいう波)を表していなかったという所です。
そもそもオープン・イノベーションが提唱される前から、ネットワーク型のイノベーション研究はされており、そこでは基礎的な技術に外部の力を借りるか、生産工程に外部の力を借りるかなどが考えられてきました。
しかし、オープン・イノベーションはそのバズワード一つで、今までのネットワーク型イノベーションを一蹴してしまいました。
「とりあえずオープンにしちゃいなよ」ぐらいのイメージでバズったわけです。
それに今や一つの製品やサービスを提供するために外部リソースを使うことは当たり前のように行われており、「波」というほどの大きな変化もなかったのかなと思います。

 

■現代の最速イノベーション -「ビッグバン・イノベーション」-
いよいよ、最速のイノベーションがでてきました。
今までのイノベーションとは、どう違うのか、なぜ違うのか、様々な議論を次回は展開していきたいと思います。
 
つづき