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電池革命 ー日本が賭ける全固体電池ー

今回は、現在のバッテリーの問題を解決する全固体電池について、簡単に概要を記します。

■全個体電池とは
これまで主力のリチウムイオン電池には、電解液が入っていて、その中で電子が動くことで電流が発生していました。しかし、電解液中に異物が混入するなどしてセパレーターを破損させ、正負極が短絡すると異常発熱を起こし、発火や破裂の危険性があります。

全固体電池とは、この有機系液体電解質を無機系固体電解質にしたものです。何層にも積層できるのもメリットで、これによって電圧が上げられるとともにコンパクト化も実現します。

全固体電池

図:リチウム電池の全固体化

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図:各種二次電池との性能比較

また、全固体電池は電解質として、従来の有機系電解液などの代わりに固体材料を用いている蓄電池です。有機系電解液は揮発して発火、爆発する恐れがあるのに対して、全固体電池の電解質にはその可能性がないのが大きな特徴です。

■全固体電池が求められる背景
全固体電池は特に自動車業界で求められています。今後EVの生産台数は増えていくことはほぼ確実であり、かつ航続距離の延長は永遠のテーマであるため、バッテリーには高いエネルギー密度が求められます。
EV
図:世界の車種別販売台数の将来予測(IEA推定)
出所:自動車産業戦略2014 (経済産業省)

■従来予測を10年前倒しに
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2010年に取りまとめたロードマップ「Battery RM2010」では、革新型二次電池が実用化されるのは2030年以降としています。

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図:平成27年度 NEDO『TSC Foresight』セミナー(第2回)『TSC Foresight 車載用蓄電池』 概要平成27年10月30日 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 スマートコミュニティ部

しかし、スマートフォンウェアラブル端末、電気自動車、そして家庭や電力事業者向け蓄電池の質量エネルギー密度が今後3年ほどで2倍以上、同容量では価格が1/2以下になる可能性が出てきました。これは、NEDOが掲げる開発ロードマップを、約10年も前倒す動きです(日経エレクトロニクス2015年3月)

特にトヨタは2020年にブレークスルーをもたらす段階にきわめて近づいており、トヨタが2022年をめどに全固体電池を積むEVを国内発売する方針を固めた、というニュースも流れています。

米ウォールストリートジャーナルでは、全固体電池では、利用可能な時間が増えるため、自動車に電池が使われた後にリサイクルとして、家庭用や商業用の蓄電池にも使えると書かれています。
(*Toyota's solid state battery could be an industry breakthrough)

また、近年(少し古いですが)の論文数の推移を見ても、全固体電池への注目が伺えます。

論文_全固体電池
図:革新型蓄電池の論文同行
出所:NEDO 技術戦略研究センターレポート


■全固体電池で日本が優位に
全固体電池の分野は、日本の得意な領域でもあります。

以下の図は、全固体(二次)電池の特許について、国籍別の比率を表しています。
約60%を日本が占めており、他国と比較して優位な領域であることが考えられます。
特許
出所:平成25年度 特許出願技術動向調査 -次世代二次電池ー

また企業別に出願件数を見ても、上位のほとんどを日本企業が占めており、日本の強さが顕著に表れています。先ほど紹介したトヨタも、特許出願件数で圧倒的1位になっており、エンジンの代替となる全固体電池の研究開発に注力していることが見受けられます。
ランキング
出所:平成25年度 特許出願技術動向調査 -次世代二次電池ー

近年では、全固体電池の開発に、AppleDysonも名乗りを上げてきています(日経エレクトロニクス2016年6月)
全固体電池は電気自動車だけでなく、小型デバイスの内蔵電池にも使用されるため、自動車メーカー以外からも需要があるのです。

応用産業
出所:平成25年度 特許出願技術動向調査 -次世代二次電池ー


■おわりに
今回は全固体電池の現状とこれからについて説明してきました。
これから多くのデバイスに搭載される全固体電池について、少しでも興味を持っていただけましたでしょうか。
今後必要となる全固体電池。日本の新しい武器として期待しています。



本記事は前回からの続きです。