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トヨタも注目するブロックチェーン -その先にあるIOTA-

今回は、データ収集のセキュリティの観点から、ブロックチェーンに着目したいと思います。
はじめにブロックチェーンの概要を説明した後、ブロックチェーンの仕様が注目される自動車の未来、そしてブロックチェーンの次に来るものについて考えていきます。

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出所:What is block chain

■破壊的技術 ブロックチェーン
ブロックチェーンは分散暗号化台帳(取引履歴を暗号化してつないでいったもの)で、ビットコインのような暗号通貨のベースとなっています。
ビットコインによる送金では、従来の中央集権型のシステム(管理者が利用者からの送金情報を受けて帳簿を更新)ではなく、参加者が全体として管理者の機能を果たしている分散型のシステムをとっています。

この分散型のシステムではブロックチェーン技術が使用され、以下のような特性があります。
  • 各ノードがトランザクション履歴を有するため、システムの単一障害点がなく、「実質ゼロ・ダウンタイム」を実現可能
  • トランザクション履歴は順番にブロックに格納され、各ブロックが直前のブロックとつながっているため、「改ざんが極めて困難
  • ノードへの分散やコンセンサス方式などの要素を組み合わせることにより、同程度の堅牢性を持つシステムを従来のシステムと比較して「安価」な構成で達成することが可能

ブロックチェーンの機能は、ビットコインに使われるだけにとどまりません。ブロックチェーン上で契約をプログラム化するスマートコントラクトなど、暗号通貨以外の用途があります。ブロックチェーン上のスマートコントラクトは
「コンピュータが読めるプログラムを書き、当事者双方の署名付きでブロックチェーンに登録することでそれを契約締結を見なし、法執行機関なく自動的に執行されるようにする」
というアイデアです「ハーバードビジネスレビュー『ブロックチェーンの衝撃』, ブロックチェーン:ビットコインを動かす技術の未来」より)
これによって、契約の手続きや執行コストの低減が期待されています。

スマートコントラクトのインパクトについて、自動車業界に与える影響を題材にして、話を具体的に進めていきます。



■モノを「所有」する必要がない時代へ

従来は、電車で行けない場所に、数時間の移動となると、ほとんどの場合車を使うしか方法がなありませんでした。そして、その場所に何回も行くとなると、車を買うことを選択する人がほとんどになります。そのため、車を所有する必要性がありました。

その後、レンタカーのサービスが出てきました。1916年に最初のレンタカー業者とされるネブラスカジョー・ソーンダースは、車にメーターを取り付け 、1マイルあたり10セントの方式で貸したと言われています。世界初のレンタカーの利用者は、色々な地で女性とのデートを予定していたセールスマンだったようです(History of Car Rentalsより)。レンタカーが登場したことで、必ずしも車を所有する必要はなくなりました。しかし、ご存じの通りレンタカー代は高いです。なぜなら、レンタカーを所有している企業は営業所や多くのスタッフ、車など、多くのコスト要因をかかえているからです。

そこで出てきたのが、一般の人がその人が所有する車を他人に貸し出すサービスです。例として、Anycaなどの仲介企業が挙げられます。ここで、サービスを提供する企業は車や営業所を所有する必要がなくなったため、コスト要因が大きく減りました。そのため、車を借りたいと思っている人に、よりリーズナブルな価格で車をレンタルすることが可能になりました。

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図:Anycaのサービス概要
出所:Anyca HP

しかし、まだコスト要因を減らす動きがあります。ここまで、便利になっているのに、どこのコストを減らすというのでしょうか。ここで減らすのは仲介企業です。その仲介企業を減らす手段となるのがブロックチェーンなのです。

 

上述の通り、ブロックチェーン技術にはネットワーク上の取引の確実性を高める特性があります。
この特性を使って、自動車会社は仲介業者を抜きにしたサービスの提供が可能になります。第三者がいなくても自動車をシェアできるようになる理由としては、鍵の受け渡しを実際に相手と会って、代金の受け取りと同時に鍵を渡す場合以上に、信頼性がブロックチェーンによって担保されているためです。これまで暗号通貨の一つであるイーサリウムが数々のセキュリティ攻撃を受けてきましたが、その攻撃にブロックチェーンは耐えることができています。そのため、ブロックチェーン技術によって、セキュリティに対する信頼も構築することができています。
仲介業者が担っている機能のうち、具体的にはアクセス権管理、決済サービスなどでブロックチェーン技術を用いて代替的なサービスを提供する試みがされています。仲介業者を抜きにすると、自動車の借り手と貸し手が仲介業者を挟むことなく、より低価格で自動車の貸し借りができるようになります。

ブロックチェーントヨタも注目
以上のようなブロックチェーンの発展に関連して、トヨタ自動車TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)とMITと共同で、自動運転の時代を見据えてブロックチェーン技術の開発をしています。なぜ、自動車メーカーがブロックチェーン技術の研究をするのでしょうか。それは、今後自動車の販売台数が減っていき、自動車をシェアするスタイルが拡大すると予測されているためです。英国大手投資銀行バークレイズ・キャピタルが行った調査によると、今後25年で米国における新車販売台数は40%減少すると予測されています。この結果には、自動車をシェアするスタイルが拡大することが考慮されています。とりわけ自動運転車は、1台1千万円以上になると予測されており
(Revolution in the Driver’s Seat: The Road to Autonomous Vehiclesより)、このような高価な車はシェアの形をとる方が合理的です。

TRIはMITと提携するにとどまらず、ブロックチェーン分野で有力スタートアップや企業ともコンソーシアムを組んでいます。 分散暗号化データベースを提供するBigchainDBや、ブロックチェーンを用いたカーシェアリングと関連する支払いなどを処理するアプリを開発する米Oaken InnovationとイスラエルのCommuterzなどがパートナーに該当します。

さらにトヨタ自動車ブロックチェーン技術を用いて確保するデータを、カーシェアリング以外にも活用しようとしています。トヨタ自動車ブロックチェーンデベロッパー、Gemと提携し、同社が開発した保険アプリを自動車保険に応用します。Gemはブロックチェーンを利用した元帳により、分散した多数の情報源からのデータを記録し、保険金支払請求の自動処理に役立てるシステムを開発しています。トヨタとの提携でGemは個別車両の使用の度合いに基づく従量制保険の開発に着手します。つまり、自動車に設置された数多くのセンサーからデータを収集し、そのデータを分析することで個人に最適な保険を提供しようとしているのです。


このように、自動車×ブロックチェーンに注目しているのは、トヨタ自動車だけにとどまりません。ドイツの自動車部品メーカーZF社は、2017年1月、銀行大手のスイスUBS Group社とドイツinnogy Innovation Hub社と共同で、ブロックチェーンを自動運転車や電気自動車などの決済に使うサービス基盤「Car eWallet」を開発すると発表しました。

Car eWalletのユースケースとしては、電気自動車を充電する際のマイクロペイメントだけでなく、カーシェア用の認証基盤、個人間の駐車場シェア、交通データの収集・活用など幅広く提示されています。

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出所:ZF社 プレスリリース

今後は情報銀行のように、個人のデータを提供することで、カーシェアリング自動車保険の割引・ポイントバックができるようになるかもしれません。これらのデータもブロックチェーンによって保護されているので、システムの堅牢性は高いです。そのため、個人情報を提供する側の信頼も得られやすくなるのではないでしょうか。


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図:個人情報の自己管理を支援する社会システム: 情報銀行に関する研究
出所:東京大学 柴崎・関本研究室

ブロックチェーンの先へ IOTA

ブロックチェーンの魅力について、今までお伝えしてきましたが、実はブロックチェーンに存在する、ある課題を乗り超えるかもしれない技術が出てきました。
それが「IOTA(アイオータ)」です。

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出所:IOTA.org

IOTAとは、IOTAプロトコル上でやり取りされるIoTに最適化された暗号通貨です。IOTAは、パソコンやスマートフォンだけでなく、あらゆるIoTデバイスが利用可能です。

 

「IOTAって何のために必要なの?別にブロックチェーンでも良いじゃないか。」という意見もあるかと思います。
しかし、ブロックチェーンには課題があります。それは、ビットコインのようにブロックチェーンを用いて取引を記録する場合には、その度に承認手数料をマイナーへ支払う必要があるということです。小さな容量のデータをやり取りする度に、お金を払うのはつらいものです。

(仮にプライベートチェーンで報酬(承認手数料)を不要にした場合でも、ブロック承認の検閲耐性や透明性が低かったり、ブロックチェーンサービスのイニシャルコストが高かったりするなど、課題があります。)

 

IOTAの独自技術Tangleは以上の課題を解決します。
TangleはDAG(Directed acyclic graph)と呼ばれる非循環有向グラフ構造に基づいた、ブロックチェーンと似た働きをするアーキテクチャです。具体的に説明すると、Tangleは下図のような構造をしており、ブロックではなくトランザクション一つ一つが四角で表現されていて、ビットコインのようなブロックサイズの概念がないため、理論上は無限の量のトランザクションを処理することが可能です。

 

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図:Tangleの構造
出所:IOTA White Paper

 

Tangleにより、IoT機器間の取引にかかる小さな容量のデータのやり取りを独自の台帳に記録することで手数料を完全無料にしています。取引手数料が発生しない理由は、IOTAではビットコインのように取引の承認者である特定の採掘者グループというものが存在せず、利用者一人一人が取引の承認者であることに起因しています。

(IOTAの場合は、トランザクションの生成時に前の2つのトランザクションを承認することが必要です。この承認時の作業では、ビットコインの採掘時と同じようにPoW(プルーフ・オブ・ワーク)を行います。)

このように、IOTAでは取引手数料がかからないことが他の暗号通貨と異なる大きな特徴です。
IOTAとIoT機器を活用することで、より柔軟にリアルタイムかつ細かな料金支払が可能となります。例えば、レンタカーで走行距離分だけ数メートル刻みで支払いを行うことも可能となります。
つまり、トヨタ自動車もIOTAを活用することで、理屈上はよりオンデマンドで個人の細かなニーズに対応することもできるのです。

 

現在、IOTAは発展段階で、MITから脆弱性を指摘されるなど、まだまだ課題はありますが、今後IoTをさらに発展させるキーテクノロジーになるかもしれません。





<参考文献>

ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会報告書
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news290346.pdf

・平成28年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸整備等に係る調査)
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170329004/20170329004-1.pdf
http://www.meti.go.jp/english/press/2017/pdf/0329_004b.pdf


・ハーバードビジネスレビュー 2017年8月号 「ブロックチェーンの衝撃」

 


・スマートコントラクトについて
http://gaiax-blockchain.com/smart-contract

History of Car Rentals
http://www.carrentaldir.com/history-of-car-rentals.html

・Anyca
https://anyca.net/

・BCGレポート "Revolution in the Driver’s Seat: The Road to Autonomous Vehicles"
https://www.bcg.com/publications/2015/automotive-consumer-insight-revolution-drivers-seat-road-autonomous-vehicles.aspx

・TechCrunch「トヨタブロックチェーンを自動運転車開発に導入へ――MIT始め多数の企業と提携」
http://jp.techcrunch.com/2017/05/23/20170522toyota-pushes-into-blockchain-tech-to-enable-the-next-generation-of-cars/

・日経Automotive 2017年3月号 「新しいシェアカーにブロックチェーン
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/15/013000091/020100004/?i_cid=nbptec_sied_rel&rt=nocnt

・ZF プレスリリース
https://press.zf.com/site/press/en_de/microsites/press/list/release/release_29127.html

・IOTA White Paper
https://iota.org/IOTA_Whitepaper.pdf

・SATOSHI WATCH "IOTA — The Winner Takes it All"
https://satoshiwatch.com/coins/iota/in-depth/iota-the-winner-takes/

・IOTA Development Roadmap
https://blog.iota.org/iota-development-roadmap-74741f37ed01

・MIT and Boston University Researchers Find ‘Vulnerabilities’ in IOTA Code
https://btcmanager.com/mit-boston-university-researchers-find-vulnerabilities-in-iota-code/