Innovation Tips

Innovation, Data Science, Research, Business, etc.

「考えない社会」にどう向き合うか -テクノロジーによる自動化から「経験拡張」へ-

「なんとなく旅行に行きたい」
そんな気分になる時もあります。

 

このような気まぐれな思い付きに対応してくれるサービスがあります。
それが「ズボラ旅」というサービスです。ズボラ旅では、行き先や予定が決まっていなくても、LINEで出発地を伝えるだけで旅行プランを提案してもらえる。
旅行プランは、サービスインに向けて半年ぐらいかけて貯めたデータや過去のユーザーからの評判が良かった場所などから、旅行業の資格を持っているスタッフがプランを作成しれくれるそうです。

f:id:takuK:20180916105649p:plain

(出所:ズボラ旅HP) 

 

旅行に行きたいと思っている人はたくさんいます。しかし、実際に旅行に行くとなると、参加者の日程調整、ホテルの検索・予約、観光地や昼食の場所など、探して決める作業が多く発生します。この決めていく作業が楽しいという方もいらっしゃると思いますが、現代では情報があまりに多いため「決断疲れ」が起こっています。今回は始めにこのような「決断疲れ」を解消しながら、ユーザーに様々な価値を提供する「無思考型サービス」について触れていきます。

 

■無思考型サービスの流行
無思考型のサービスとは、従来は人が考えていたことを、サービス側で自動的に考えて設定してくれるものです。そのため、インプットがあれば、自動的にアウトプットが出てくる"End to End"のサービスなのです。

ズボラ旅の場合では、従来は具体的に自分の頭で考えていた旅行計画が、出発地を設定するだけという非常に抽象的なインプットだけで、サービスが成り立ってしまうのです。このように人が考えなくても、自動的にユーザーに価値を提供してくれるサービスが増えています。


例えば、資産運用の分野では「WelthNavi」や「THEO」と呼ばれるロボアドバイザーが、従来は人が考えて手を動かしていた資産運用を自動的にしてくれます。

f:id:takuK:20180916111014p:plain

(出所:WealthNavi HP)


他にも、毎日の献立を決めてくれる「me:new」や洋服を定期的に届けてくれるZOZOの「おまかせ定期便」などが存在し、無思考型のサービスはますます拡大しています。
 

■無認知、無思考、無行動
無思考型のサービスが流行しつつありますが、今後は無思考だけでなく、
「無認知、無思考、無行動」にまでサービスの幅が広くなると考えられます。

自動運転車はその典型例です。従来は人の目で見て、人が判断し、人の操作で車を動かしていたものを、カメラやセンサーで周囲の状況を検知し、高度なAIアルゴリズムで判断し、ハンドルやステアリングも自動操作で行うことができます。自動運転もレベル5まで行くと完全自動化になり、人間が無認知、無思考、無行動になる車両ができあがります。車を所有⇒頭を使って運転する時代から、車をサービスとして使用⇒移動している間は何も考えず行動しなくても良い時代へと一歩ずつ進んでいるのです。

 

■「考えない社会」の到来
それではなぜ無思考型のサービスが発展してきているのでしょうか。その理由は大きく2つあると思います。

1. 世の中の情報が多すぎる[ニーズ]
「世の中にある情報は多すぎて理解できない!!」と、ハズキルーペのCMのように叫びたい世の中になっています。具体的には、2014年の段階で生成されていたデータ量(60エクサバイト/月)に対して、2017年はその倍(予測値122エクサバイト/月)になっています。さらに、2020年にはさらにその倍(予測値228エクサバイト/月)になると言われています。

f:id:takuK:20180916112104p:plain

そのため、多くの人は膨大な情報処理に「決断疲れ」を起こしており、決断をしなくても自動最適化してくれるサービスを求めているのです。

 

2. 情報処理をするテクノロジーの発展[シーズ]
機械学習や最適化アルゴリズムの向上によって、人間が何もしなくても、価値を出してくれることが増えました。例えば、先ほど紹介したWelthnaviやTHEOは人が何もしなくても最適な資産運用を自動的にしてくれます。また、プログラムのライブラリやパッケージが充実し、機械学習民主化したことで自動最適化を行いやすくなっています。

以上、ニーズとシーズの2つの観点から、無思考型のサービスが増えてきており、「考えない社会」が広がる可能性があります。

 

■「役立たず階層」の出現
サピエンス全史ホモ・デウスの著者であるユヴァル・ノア・ハラリは、AIの発展によって将来「役立たず階層」が大量発生すると予測しています。*1

人間が持つ肉体的機能と認知的機能が、コスト・質の面で機械よりも低くなってしまった場合、その人は経済的価値を失ってしまいます。このような一定層をハラリは「役立たず階層」と言っているのです。

AIの1つの価値として、一定の処理を自動化し、それを半永久的に繰り返せる部分があります。これは、生産性を高めるという観点では非常に重要なのですが、従来人間が考えて実行していたことを奪ってしまうため、部分的に人を怠けさせる作用があります。「考えない社会」で、本当に人の認知的機能が下がっていくとすれば、それは危機的状況です。


■「経験拡張」によるスーパーヒューマンへ

今後「役立たず階層」に陥らないためには、人の機能を高める必要があります。方法としては、テクノロジーを使って人を教育することで、より効率的により早く人を育てることができます。例えば、現在でもVRを使ってプレゼンテーション能力を高める「VirtualSpeech」というサービスがあります。「VirtualSpeech」は、あたかも会場にいるような没入観の元に、VR空間でパブリックスピーキングのトレーニングを行うことができるサービスです。

f:id:takuK:20180916114502p:plain

 (出所: VirtualSpeech HP)

 
VirtualSpeechは他にも、ジョブインタビューの準備のためのサービスやビジネス英語の練習のためのVRコンテンツを提供しています。


このように、人が未経験のことをVRやARなどで経験する「経験拡張」により、人はこれまで以上に身体的機能・認知的機能を高めることは可能になります。

ここで、重要なのは「経験」を獲得できるということです。
従来型の学習では、本や動画を見て、情報・知識・知恵は得られましたが、「経験」は実際に頭と身体を動かさないと獲得が難しいものでした。
しかし、「経験拡張」が可能になると、頭と身体を同時に働かせる学習が容易になり、学習スピードと理解の深さが向上します。テクノロジーを上手く使うことで、従来の人間の身体的機能・認知的機能を超えたスーパーヒューマンにもなれるかもしれません。


このような人間の身体性等を拡張させる学術領域は「人間拡張(工学)」と呼ばれています。人間拡張の国際学会”Augmented Human”では、2018年のテーマが"Augmented Experience (AX)"、まさに「経験拡張」でした。*2

f:id:takuK:20180916175822p:plain

(出所: Augmented Human 2018)


テクノロジーを使った自動化だけでなく、人間の経験をテクノロジーを使って拡張させ、身体的機能・認知的機能を高める研究が今後も期待されています。

*1:

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか (PHP新書)

 

 

*2:

http://www.sigah.org/AH2018/