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人が求める「価値」とは何か ー新たな価値から始まるイノベーションー

 前回は人の欲望の話でしたが、今回は「価値とは何か」という所まで議論したいと思います。

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これまでの投稿で「価値最大化」と言ってきたものの、そもそも「価値とは何か」については触れていませんでした。そのため、下記では価値についての深堀を進めていきます。

 

■価値はどのように生成されるのか

そもそも人はどのように情報を処理しているのでしょうか。まず、人の脳で起こっている情報処理の概念図を以下に示します。

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図:意思決定のプロセスと価値生成*1

 

ここでは、人間の感覚器を通して入ってきた情報が、認知・動機付け・感情に影響を与え、その結果として価値が生成されることを表しています。またそこで生まれた価値が意思決定の判断基準となり、それが行動へと結びつきます。

「価値の生成」の際には様々な情報が集められ、それが1次元の情報として比較・処理されます。この時の「価値」について、具体的にどのようなものがあるかを詳しく見ていきましょう。

 

■価値の分類

 大前提として、価値の分類には様々な手法があります。そのため価値の分類パターンをいくつか示していきます。まずは簡潔に価値を分類した一例の図を以下に示します。

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(各種文献に基づき筆者作成)


価値の分類を最初の分岐から丁寧に見ていきます。最初は、価値を「意味的価値」と「機能的価値」に分けています。*2

 

・意味的価値
顧客が製品に対して意味づけすることで生まれる価値です。意味的価値が重要な商品とは、顧客が機能そのものに対して対価を支払うのではなく、その商品に対して特別な意味を見出し、その意味に対して対価を支払う商品です。

 

・機能的価値
これはシンプルに定量化できる価値です。PCが機能的価値としてわかりやすいと思います。例えば、新しく発売されたPCのスペックが従来の型よりも良ければ機能的価値が向上しています。処理速度、メモリ容量、バッテリーの持ちなど定量化できて分かりやすい指標が多くあります。

 

 また、別の分け方では、米国のマーケティングの権威であるジャグディッシュ・シェス、ブルース・ニューマン、バーバラグロスの共著"Consumption Values and Market Choices"(消費価値と市場選択)*3 』の中で、以下の顧客価値を提唱しています。

  • 機能的価値:実利的な目的を果たす能力に関わるもので、性能と信頼性を重視します。
  • 社会的価値:人と人とのインタラクションに関わるもので、ライフスタイルや社会意識を重視します。
  • 感情的価値:個人が組織の提供物とインタラクトする際の感情面での反応に関わるものです。たとえばパーソナルデータのセキュリティサービスは、個人情報の盗難やデータの損失に対する人々の不安や恐れをビジネスにつなげた例です。
  • 認知的価値:好奇心や学習意欲から生まれる価値で、個人の成長や知識の獲得を重視します。
  • 条件付きの価値:特定の状況や文脈に依存して生じる価値です。例えば米国では毎年ハロウィーンが近くなるとカボチャとお化けの衣装の価値が上がります。これは「条件付きの価値」の一例です。

さらに、以上の価値よりも「意味」を重要視すべきだという説もあります。
米国のデザイン戦略家のネイサン・シェドロフ、スティーブ・ディラー、ダレル・リアスとの共著"Making Meaning*4 "の中で以下の15の「プレミアムバリュー(極上の価値)」を挙げています。

 

  1. 達成感:目標達成に関する誇りと自信
  2. 美:感覚的快感を引き起こす美的な性質
  3. コミュニティ:周囲の人々との絆
  4. 創造:あるものを作りだした満足感
  5. 義務:責任を果たした満足感
  6. 啓発:あるテーマについて学んだ満足感
  7. 自由:束縛されずに生きているという認識
  8. 調和:全体を構成する各部のバランスがとれていることに対する快感
  9. 正義:構成、公平な扱いの保証
  10. 一体感:周囲の人や物との一体感
  11. 救済:過去の失敗からの解放
  12. 安心感:損失への不安からの解放
  13. 真実性:誠実さ、公正さの尊重
  14. 是認:人や物の価値の外的承認
  15. 驚き:理解を超えた人や事物にまつわる体験

 

 これらの要素をまとめたものが、上記の図です。

 

・「感性ポテンシャル思考法」による価値の捉え方

一方で、「意味的価値」を「感性価値」としてとらえ、価値を整理する方法もあります。「感性ポテンシャル思考法 ゼロからのビジネス・イノベーション(著:村田智明)*5」の中では、感性価値を6つに分けて整理をしています。

 

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 (「感性ポテンシャル思考法 ゼロからのビジネス・イノベーション」より一部抜粋)


ここでは、感性価値を大きく「直接感性」と「間接感性」の2極に分けています。直接感性とは直感的にハッとして好感をもつ感性で、間接感性とはエピソードなどを聞いて共感する感性です。上記の図では、この2極の中で6つの感性がどのようなポジションになるかを示しています。

ここで重要なのは、人は情報によって操作されてしまう、ということです。本書の中では、テーブルの上に10個並べたグラスを手に取ってもらい、1から10まで順位をつけてもらう実験をしていました。最初は被験者に何も伝えずにグラスの順位付けをしてもらい、その後1つ1つのグラフの情報を明かします。そして、被験者に再度グラスの順位をつけてもらうと 最初と順位が変わっている、というものです。つまり、間接感性が効いていることを示しています。

被験者に公開するグラスの情報には、例えば次のようなものがあります。
グラスの1つに、「サクラサクグラス」という一見普通のシンプルなグラスがあります。しかし、実はこのグラスは、外気とグラス内部の温度差で生じる結露の現象によって、卓上に桜の花が咲くグラスなのです。

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底が桜の花の形になっており、グラスの水滴が桜の花びらの模様となって現れます。このグラスを使うことで、厄介に思っていた水滴が、普段の生活にささやかな楽しみをもたらす新しい体験に変わるのです。

 

Value Pyramid

さらに、価値をより細かく分けたものがベイン・アンド・カンパニーが提案する"Value Pyramid"というフレームワークです。

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(図:The B2C Elements of Value)

 

Value Pyramidではマズロー欲求段階説を拡張し、ピラミッドの下の価値から、FUNCTIONAL(機能的価値)、EMOTIONAL(感情的価値)、LIFE CHANGING(人生を変える価値)、SOCIAL IMPACT(社会的インパクトを与える価値)として定義しています。
各階層には具体的な価値が示されており、提供価値のモレを確認したり、強調すべき価値は何かを考える時に非常に有益です。

ちなみにこのValue PyramidにはBtoB版も出ており、様々なビジネスで価値を分析する時に使えそうです。

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(図:The B2B Elements of Value)

 

■今後、求められる価値は何か

以上のように、価値の分類を行ってきましたが、使えるフレームワークは状況によって異なります。その時代・環境に求められる価値は何かを考え、その際に上記のフレームワークが使えたら使う、使えければ再度考える必要があると思います。


それでは、未来において求められる価値は何になるのでしょうか。
A.T.カーニーが行った調査「未来の消費者に関するグローバル調査」によると、未来の消費者は「物質的な豊かさ」から「つながりや影響力」を重視する時代になると分析されています。(本調査では10年後の予測をしています。)

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このように「つながりや影響力」を重視するようになる背景として、未来の若者の価値観の変化を挙げています。まず、人口動態を見てみると、2027年までに、市場に特徴の異なる6つの世代の消費者が存在するようになり、その中でも「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代の人の割合が増えていきます。2027年には、世界の人口の30%がジェネレーションZとなり、うち15億人はその時既に成人しています。

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ここで、割合が多くなる「ジェネレーションZ」は、独特の価値観を有しています。

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ミレニアル世代がパーソナル・テクノロジーやデジタル・プラットフォーム登場以前の世界をまだ覚えているのに対し、最年長者がGoogleの創業と同じ年に生まれたジェネレーションZは、真のデジタルネイティブである。ジェネレーションZはミレニアル世代に比べ、よりプライベートな形でコンテンツを共有し、Snapchat(スマートフォン同士で写真・動画を共有するサービス)のような小規模で閉鎖的なコミュニティでの直接的なメッセージ交換を好む。これに対し、ミレニアル世代はソーシャルメディアを使ってより広い範囲でコンテンツを共有している。

 

モノよりも自分の行動に価値があると考えて行動するジェネレーションZ世代が「影響力」モデルへシフトしやすいため、今後もこの世代から価値観の移行が始まっていくことが考えられます。

 

■最後に

価値は時代や環境によって変化しますが、重要なのはマクロな価値観を捉えることと、ミクロな価値観を捉えることだと思います。マクロな観点では、A.T.カーニーの調査のような世界の大きなトレンドを把握することが重要で、ミクロな観点では個人のデータを用いた分析が重要になると思います。個人の行動データや属性データから一人一人の価値観を抽出し、個人のプロファイル分析をしていくと、上記の「意味的価値」を定量的な価値として分析できるようになります。その結果として、より細かい粒度で個人の価値観を把握することができ、その人が「何を求めているか」を理解できます。Amazonは、通常のセグメンテーションよりも細密な「1人のセグメンテーション」、さらにはある特定の時間や場所などにおけるセグメンテーションを実施した「0.1人のセグメンテーション」を実施可能です。1人という枠組みを超えて、誰が、いつ、どこで、何をした時に求める価値は何かを把握することが今後のデータ戦争の中では重要になると思います。

以上のマクロ・ミクロ両者の観点で「価値」を捉えることで、企業-消費者、人-人の間において、価値の送り合いを最大化できると期待しています。

 

 

追記

■誰に価値を提供するか

誰に価値を提供するかを考えます。ここで興味深いのは鎌倉投信が提唱する「八方良し」の考え方です。社員から経営者、国や地域などと連携し、社会全体に価値を出していくことを目指した新しい考え方だと思います。ある製品・サービスを考えたときに、それがこの八方に対してどのような影響を与えるのかをチェックリスト的に把握しておくことが大事だと思います。

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出所:『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン*6

 

*1:意思決定の脳メカニズム -顕在的判断と潜在的判断-

*2:価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道 

価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道

価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道

 

*3:

Consumption Values and Market Choices: Theory and Applications

Consumption Values and Market Choices: Theory and Applications

 

*4:

Making Meaning: How Successful Businesses Deliver Meaningful Customer Experiences (Voices That Matter)

Making Meaning: How Successful Businesses Deliver Meaningful Customer Experiences (Voices That Matter)

 

*5:

感性ポテンシャル思考法 ゼロからのイノベーション

感性ポテンシャル思考法 ゼロからのイノベーション

 

*6:

持続可能な資本主義

持続可能な資本主義