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信頼・信用(TRUST)について考える

 

今の世の中は”VUCA”と言われるようになりました。”VUCA”とはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものです。
技術の進歩が目まぐるしく、世界情勢も刻一刻と変化する世の中では、人は何を信じていくのでしょうか。今回は「信頼・信用(TRUST)」をテーマとして扱い、このテーマを様々な観点から考えていきたいと思います。



■信頼・信用とは何か。
信頼も信用も英語では、TRUSTと訳されます。TRUSTを英英辞典で調べると、”a strong belief in the honesty, goodness etc of someone or something” と出てきます。さらにbeliefを調べると、”the feeling that something is definitely true or definitely exists”と出てきます。結局、信頼・信用とは、自分に入ってきた情報を基づいて、「あるものが本当だと感じる・信じる」という人間の思考を原点にしています。

 

■「信じる」ことのメカニズム

 

・システム1
 自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。(自動的、速い、連想的、感情的)

 

・システム2
 複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。一連の段階を踏み順序立てて考えを練り上げる。(努力を要す、遅い、意識的、規則的、客観的)

 

基本的には、システム1はこれまでの経験や知識をもとに直感的に判断するヒューリスティックな思考であり、システム2は合理的・論理的な思考です。
私たちは何かを考える時に、この2つのシステムを使っています。

 

システム2を使って、論理的に、数学的に正しいと証明されたものは強く信じることができますが、VUCAの世の中では、全ての物事について正しいことを証明することは不可能です。その上で私たちは意思決定をしなければならないため、結局は何かを頼りにして何かを信じるしかありません。
そこで重要な役割を果たすのがシステム1に影響を与える「感情」です。

 

■「感情」を捉える
正確には、感情の動きである「情動」について考えていきます。情動は神経系や免疫系、内分泌系といった、様々な身体のシステムが統合的に働いた結果としての生理反応です。神経系に限っても、自律神経に反映される身体反応や、大脳新皮質の高次脳機能に反映される状況判断や予測など、情動に反映される機能は多岐に渡ります。

 

例えば、脳で作られるオキシトシンという神経伝達物質が信頼を築く上で重要な働きをしていることが「信頼ゲーム」という実験によって分かりました。オキシトシンの機能や他の重要な脳内物質との相互作用をさらに研究すると、自閉症など社会的相互作用の不全を特徴とするいろいろな疾患について多くのことがわかってくるとも言われています*1。

また近年では、感情の分析が進み、世に出ているものとしてはロボットのpepperに内分泌系の数値を設定し、その数値の変化によって感情がどのように変わるかを作り上げるシステムも存在します*2。





以上のような感情によって、「感情ヒューリスティック」を考慮する必要があります。感情ヒューリスティックとは、ヒューリスティクの中でも、対象物への感情によって、判断が変わるというものです。人間は、好きなものに対してはそのリスクを過小評価する傾向があります。




■ロマンと算盤
これまでシステム1とシステム2によって、「人間が信じる」ことのメカニズムを考えてきました。ここでは、自分なりに「人が信じる」時の心の状態を整理してみます。

 

以下の図は、心の状態を①感情のプラスマイナスの軸、②感情のボラティリティ(変動幅)で整理したものです。心の状態を主観確率分布で表していて、縦軸に確率の大きさ、横軸に事象が起こった時の想定感情を設定しています。主観確率分布は、個人の経験や感覚に基づくものなので、人それぞれに、かつ状況毎に確率分布が設定されれるイメージです。


信用1


①「期待」:感情がプラス、ボラティリティが大きい
②「確信」:感情がプラス、ボラティリティが小さい
③「不安」:感情がマイナス、ボラティリティが大きい
④「絶望」:感情がマイナス、ボラティリティが小さい

 

身近な例で考えてみましょう。例えば、占いに行こうとしている人を考えます。その人は、人生に対して漠然とした③不安を抱えており、自分の将来について誰かに相談したいと思っていました。そこで占い師の所に行ったところ、「来年はきっと良い年になる」と言われ、その人は来年に①期待を持つようになりました。この時に、占い師の言ったことに根拠がなくても、システム1が「来年はきっと良い年になる」という言葉に強く反応して、信じたことで、確率分布の山の位置*3が大きく変化すると考えます。この場合は、システム1(ロマン)がシステム2(算盤)よりも強く働いた形になります。もちろん、人によっては占いを信じない人も多いと思います。その場合は、システム2の方が優位に働いています。



■今回のまとめ
今回は、「信頼・信用(TRUST)」を根本から考え、私たちはどんな考え方で物事を信じているのかを考え、論理と感情の観点から思考のタイプを考えてきました。そして、人が物事を信じる時の状況を4つの場合に分けて整理しました。次回はビジネスの観点から「信頼・信用(TRUST)」について考えていきます。



 

*2 cocoro SB、Pepperの心を理解する、Pepper感情生成エンジンの秘密  レポート

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3  MAP推定値を示す。最大事後確率(MAP)推定は、統計学において、実測データに基づいて未知の量の点推定を行う手法である。