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外資系コンサルの資料解説 [次世代自動車:BCG]

前回の記事が好評でしたので、今回も引き続き資料解説をしていきます。

www.innovation-blog.com

 

今回紹介する資料は、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の

激動する自動車業界」です。

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前回とは異なり、今回は資料の構成やデザイン面よりも、

「今後、自動車業界に何が起こるのか」

を簡単に説明したいと思います。
(*特に自動車業界にあまり関わっていらっしゃらない方を想定読者としています。)

 

ポイントは、以下の3点です。

①電気自動車、自動運転車、シェアリングサービスの普及が進行

②"CASE"により利益構造が変化

③自動車業界のビジネス自体が変化

 

はじめに

現在、自動車業界に起こっている変化は、通称"CASE"と呼ばれています*1
"CASE"とは、以下の単語の頭文字をとったものです。

Connected:コネクテッド・カーへの変化

Autonomous:自動運転への変化

Shared & Service:シェアリングとサービス化への変化

Electric:電気自動車への変化

これらの変化を起点として、BCGの資料を紹介していきます。

 

①電気自動車、自動運転車、シェアリングサービスの普及が進行

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2035年には

・電気自動車の割合が30%

・自動運転車(レベル4・5の自家用車・タクシー)の割合が23%

・シェアリングサービスの利用割合(移動距離に占める割合)が18%

になると予測されています。

この3つの観点に対して、現状ではそれぞれの割合が数%台なのに対し、17年後には大幅に成長していることが見受けられます。

 
②"CASE"により利益構造が変化

さらに、自動車業界が今後も成長していく一方で、"CASE"が自動車市場に与える影響は大きくなります。現状では、CASEは自動車市場の利益のうち、約1%の割合しか関与していませんが、2035年には約40%をCASEが占めると予測されています。

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③自動車業界のビジネス自体が変化

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このスライドでは、自動車業界の今後の産業構造を簡潔に示しています。
注目すべきは、「オンデマンド・プラットフォーム」の部分です。
自動車の「所有」から「共有」へと変化する中、自動車メーカーはユーザーのオンデマンド利用に対応する手法に欠けていました。そこで、このシェアリングサービスに最初に目をつけたのがダイムラーです。(最初に"CASE"を発表したのも、ダイムラーのディータ―・ツェッチェCEOでした。)

 

ダイムラーは、"Car2go"という「乗り捨て型」のカーシェアリングサービスを始めました。これがMaas(Mobility as a service)の先駆けです。ダイムラーは他にも、欧州最大の配車アプリ"mytaxi"や、電車・バス・レンタサイクルなど自動車以外の移動体を状況に応じて提示するプラットフォームの"moovel"を展開しています。まさに、「オンデマンド・プラットフォーム」を先行して拡大しています。

 

他にも海外では、Uberや中国の滴滴出行など、オンデマンド・プラットフォームを持っている企業はたくさんあります。
一方、日本では規制および利害関係者の都合上、ライドシェア等の普及には厳しい面もあると考えられます。そうして日本がうかうかしている間に、海外の企業がオンデマンド・プラットフォームを確立してしまうと、日本企業の取り分が減ってしまう可能性があるのです。

 


以上、CASEによって、これまでの自動車産業の構造が変化していることを紹介してきました。今後も、世界・日本の自動車業界の動きから目が離せません。

 

 

追記

こちらの書籍もわかりやすく、次世代自動車について全体感のあるまとめ方がされています。

 

 

また、自動車×ブロックチェーンの取り組みについて、以前にまとめました。こちらは少し長いですが、今回の記事より情報密度高めです。

(今回の記事では少し物足りない場合などにご参照下さい。)

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*1:自動車業界の方には耳タコだと思いますが。。。

外資系コンサルの資料解説 [5G : マッキンゼー]

 今回は、前回とは異なり、5Gに関するマッキンゼーの資料を基にポイントをコメントしていきたいと思います。

 
(前回記事)

www.innovation-blog.com

 

(耳タコかもしれませんが)はじめに、5Gには

・超高速

・多発同時接続

・超低遅延

といった特徴があります。

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 参考画像:2020年に向けた5G及びITS・自動走行に関する総務省の取組等について(2017/6/8, 総務省

 

この5Gに関して、本記事でご紹介する資料は、マッキンゼーのレポート

「岐路に立つ日本 –4G から5G 革命へ」です。

 

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この資料は5G時代に向けてのビジネス動向を端的に示しており、5Gによって世の中がどのように変わっていくかを知るには良い資料だと思います。5Gの技術的な部分(Massive MIMOなど)を除いて、5Gについて概要を知るにはこの資料で充分ではないでしょうか。

 

今回は資料作成のポイントを以下の3つに絞って紹介します。

①時系列で事象を一覧化

②何が成長するか1秒でわかる 

③圧倒的なインパク

 

①時系列で事象を一覧化

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携帯電話の普及率の上昇と、日本が世界に先駆けて行ってきたイベントを合わせて一覧化しています。各情報がリンクしていて、頭の中で情報の整理がしやすいです。

 

②何が成長するか1秒でわかる 

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動画のデータ利用量とAR/VRのデータレートが大きく増加することが即座にわかります。
他の対象との比較、色の対比によって、わかりやすさをサポートしています。

 

③圧倒的なインパク

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シンプルに、起きた現象をわかりやすく、インパクトのある形に仕上げています。
それにしても、10年近くの間に日本メーカーの携帯電話の売上が72%も下がったのは衝撃ですね。

 

その背景には、海外の端末メーカーの圧倒的成長があります。

以下のスライドでは、日本国内での海外端末メーカーのシェアは約7割(2016年時点)になっていることを示しています。
こちらも衝撃的なスライドですね。

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以上、3つのポイントを紹介してきました。この資料の中では、他にも5Gの用途などが説明されています。

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全ての資料を見ても、色は基本2色で、多くても3色で、
スライドを一目見たときのわかりやすさ・インパクトを大事にしているように見受けられました。
このような資料が無料で見られるのも素晴らしいですね。

 

追記:5Gや光通信については以前に以下の記事にまとめています。技術面・事業面の詳細についてはこちらもどうぞ。

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また、マッキンゼーの方が書かれたこちらの本でも、非常にわかりやすい図が使われています。 

リソース・レボリューションの衝撃――100年に1度のビジネスチャンス

リソース・レボリューションの衝撃――100年に1度のビジネスチャンス

  • 作者: ステファン・ヘック,マット・ロジャーズ,関美和
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

 

外資系コンサルの資料解説 [技術領域全般]

最近、「技術系のリサーチ資料って、どんな風にまとめるんですか?」と聞かれることが増えてきました。 

 

リサーチ自体は、コンサルティングファームシンクタンク、リサーチ会社が行い資料をまとめることが多いです。そこで作成された資料は、ほとんど外部に公開されることはありません。

しかし、政府系の調査報告書などの場合に、実は公開されているものがあります。公開されている資料は、無料であるにもかかわらず資料のレベルが高く、僕がリサーチ業務で資料を作成する際にも参考にしています。

 

今回は、公開されている資料の中で、コンサルティングファーム(アーサー・D・リトル)が作成した良質な3つの資料を基に、資料の良いまとめ方のポイントを簡単にコメントしていきます。

 

1. 平成21年度産業技術調査事業 (技術に関する施策調査)

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この資料は、質・量ともにレベルが高いです。資料枚数としては555ページもある伝説的な資料です。

「技術全般」についてリサーチをする場合には、この資料が非常に参考になります。

 

①調査ステップ、タスク、アウトプットの明確化

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 どのようなステップで調査を行っていくかを一枚絵に表しています。各検討ステップにおけるタスクと、アウトプットイメージを示すことで、調査の全体像をもれなく表しています。

 

②MFT分析(Market, Function, Technology)

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各事業テーマを、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の観点から分析しています。ここでは、市場と技術を「機能」というキーワードで突合させ、ニーズとシーズのマッチングを図っています。ADLの得意な手法ですね。

技術系の調査をする時には、このフレームワークは非常に分かりやすく、調査自体もしやすいです。

 

③詳細なロジックツリー

MFTの切り口で、自動車業界をテーマとしてロジックツリーを作ったものが以下のスライドです。

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非常に細かくロジックツリーが作られています。この1枚を作るために、どれほど時間がかかったのでしょうか。。。このスライドは特に知力・体力の結晶だと思います。

 

2. IoT社会で重要となるデータ処理・制御技術等に関する調査

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こちらは、現在ホットなIoTを扱ったものです。今では、データを扱ったビジネスをしている企業も多いので、データビジネスに関する資料を作成する際に参考になるかと思います。

 

①全体から詳細 × 市場と技術

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調査対象となる分野を決めた後にユースケースを深堀しています(全体⇒詳細の流れ)。この時にADL得意の市場ニーズと技術シーズのマッチングを取り入れているところがGoodです。これによって、調査の網羅性と実現可能性を示すことができます。

 

②プロセス単位の「価値分析」

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上のスライドは、製造業でデータを扱うときの提供価値を、作業フロー(プロセス)単位で分析したものです。プロセス単位で分析することで、ここでも漏れのない調査を心掛けていることが伺えます。

また、提供価値を4種類に分け、その中で漏れなくそれぞれの価値が当てはまるように設計されています。

 

③重要情報を1枚絵に

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各調査分野の調査背景、ニーズ、ユースケース、システムイメージを全て示し、その上で技術的に実現可能性をもれなく検討されている力作です。

右側の「実現に向けた課題」の部分も、以下の項目でデータフローを漏れなくカバーされています。

 cf.データ収集、データ流通、データ蓄積、データ解析、表示・制御、セキュリティ

この一枚に書かれている情報が有機的につながり、それらの情報が「なぜ必要か」を一つ一つ示しています。

 

3. 平成26-27年度成果報告書 Cyber Physical Systemに関する動向調査

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こちらも今ホットな、Cyber Physical Systemについてまとめた資料です。

 

①詳細なバリューチェーン × 活動主体

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バリューチェーンを詳細にもれなく書いた上で、そのバリューチェーンに関わる活動主体を示しています。これによって、誰がどのプロセスで、どのような影響を受けるかを一覧化できます。

 

②技術レイヤー × 技術適用場所

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技術(特にソフトウェア)にはレイヤーがあるので、それらを網羅しつつ、そのレイヤーが「どこ」に使用されているかを、(1)エンドポイント/ユーザー、(2)ネットワーク、(2)データセンター/クラウドの観点から示しています。

技術のより詳細な説明をする際にも、全てMECE感が出ています。

 

・その他資料

 以下の資料も質が高く、資料作成時の参考になるかと思います。

 平成25年度産業技術調査事業重要技術分野に関する技術動向等調査

 平成24年度総合調査研究 我が国企業の海外展開及びイノベーションによる競争力分析調査事業

 *技術系ではないですが、以下の資料も非常に参考になります。 

 買物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する調査報告書

 

これまで紹介してきた資料作成方法が、「技術系のリサーチ資料って、どんな風にまとめるんですか」という質問への簡単な回答です。具体的な細かいテクニックやフレームワークなどについては、各種資料をご覧ください。

ただ、具体的なテクニックも重要ですが、それ以上に大事なのは、徹底的なMECEと、示唆を出そうとする姿勢・熱意だと思います。

業務の中で、従来のフレームワークが使えない状況にぶつかることもよくあります。その際に差がついてくるポイントは、熱意を持って最後まで情報を整理し、その情報から何が言えるのかを極限まで凝縮できるかどうかだと思っています。

 

僕もまだまだ勉強中の身ですが、少しでもお役に立てる情報を提供できましたら幸いです。

 

つづき

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シンプルに考える

 

先週、なかなか面白いニュースがあったので、Twitterでも紹介しました。

 

 

ツイート元の池谷先生が以下のように解説されています。

【断捨離な脳】知能の高い人の脳ほど、神経線維が発達しておらず、神経回路がシンプルなのだそうです。今朝の『ネイチャー通信』誌より→https://goo.gl/tbrFLL (意外な感じがしますが、同論文の著者らによれば「回路が簡素なほうが演算が効率化され直截的な情報処理が可能になる」とのこと)

 

このツイートを見て、知能の高い人は脳の神経回路がシンプルだという言葉に惹かれました。その時直感的に、情報処理を早くするには神経回路がシンプルなことに合わせて、自分の思考回路もシンプルにした方が良いのではないかと思いました。

 

先に、思考回路がシンプルでない例を紹介しておくと、それはただひたすら情報をインプットだけして、その一方で情報の整理が全くできてない状態です。

 

情報が整理できていない状態を日常生活で感じるのは、誰かに「〇〇について説明して」と言われた時に、即座に説明できない状態です。

 

このような状態では、せっかくインプットした情報も、何もなかったかのように忘れてしまいます。

 

一方で情報を整理して、精錬された状態で持っておくと、いつでも反射的にその情報を使えるようになります。

ここで、個人的に大事だと思うのは、この「精錬する」プロセスです。精錬するプロセスは要約や反復、議論するなど何種類かありますが、要点を3つにまとめるなどの基本的な情報処理は、目をつむって100点をとれるぐらいにまで仕上げておかないと、いつまでも考えはシンプルにならないと感じています。

僕は情報整理がそれほど得意ではなく、もっと早くシンプルに考えをまとめられたらといつも考えています。僕が思うにシンプルな頭とは、「無意識に正しい判断が瞬時できる能力」を備えたものだと思います。この状態を実現するには、相当な訓練が必要になります。

 

これは、よくビジネス本で出てくるロジカルシンキングなどにも共通して言えることです。ロジカルシンキングを知っている人はたくさんいますが、自分を含め、自信をもってできると言える人はそれほどいないかもしれません。

 

僕の頭が良くないからかもしれませんが、ロジカルシンキングも何回も何回も繰り返してトレーニングをしないと、なかなかできるようにはならないと実感しています。

 

・参考書籍 

論理トレーニング101題

論理トレーニング101題

 

自分自身の経験としても、学生時代にロジカルシンキングや問題解決の本を読み漁りましたが、社会人になってから、いかに自分の考えに穴があるかを思い知らされました。

今でも、まだまだ考えが甘いなと感じることがよくあります。

 

考えをシンプルにしていくには、自分ができていなかったことに1つ1つ向き合い、乗り越えてしていくしか道はないと思います。

 

挑戦して、改善して、無意識化して、やっとシンプルで早く綺麗なものが出来上がっていく感覚です。これは仕事でも、学問でも、スポーツでも、芸術でも共通して言えることではないでしょうか。

 

シンプルに考えるとは、一見簡単そうですが、実は修行の賜物だったんだなと遅ればせながら実感しています。

 

 

ブログ 引っ越してきました

従来、livedoorブログで、「思考のカケラ」ブログを書いていましたが、利便性を考え、はてなブログに引っ越しました。

 

まだ記事の中で、livedoorブログのリンクが参照されているところもありますが、徐々に修正していきます。

 

引き続き、

よろしくお願いいたします。

信頼・信用(TRUST)について考える

 

今の世の中は”VUCA”と言われるようになりました。”VUCA”とはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものです。
技術の進歩が目まぐるしく、世界情勢も刻一刻と変化する世の中では、人は何を信じていくのでしょうか。今回は「信頼・信用(TRUST)」をテーマとして扱い、このテーマを様々な観点から考えていきたいと思います。



■信頼・信用とは何か。
信頼も信用も英語では、TRUSTと訳されます。TRUSTを英英辞典で調べると、”a strong belief in the honesty, goodness etc of someone or something” と出てきます。さらにbeliefを調べると、”the feeling that something is definitely true or definitely exists”と出てきます。結局、信頼・信用とは、自分に入ってきた情報を基づいて、「あるものが本当だと感じる・信じる」という人間の思考を原点にしています。

 

■「信じる」ことのメカニズム

 

・システム1
 自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。(自動的、速い、連想的、感情的)

 

・システム2
 複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。一連の段階を踏み順序立てて考えを練り上げる。(努力を要す、遅い、意識的、規則的、客観的)

 

基本的には、システム1はこれまでの経験や知識をもとに直感的に判断するヒューリスティックな思考であり、システム2は合理的・論理的な思考です。
私たちは何かを考える時に、この2つのシステムを使っています。

 

システム2を使って、論理的に、数学的に正しいと証明されたものは強く信じることができますが、VUCAの世の中では、全ての物事について正しいことを証明することは不可能です。その上で私たちは意思決定をしなければならないため、結局は何かを頼りにして何かを信じるしかありません。
そこで重要な役割を果たすのがシステム1に影響を与える「感情」です。

 

■「感情」を捉える
正確には、感情の動きである「情動」について考えていきます。情動は神経系や免疫系、内分泌系といった、様々な身体のシステムが統合的に働いた結果としての生理反応です。神経系に限っても、自律神経に反映される身体反応や、大脳新皮質の高次脳機能に反映される状況判断や予測など、情動に反映される機能は多岐に渡ります。

 

例えば、脳で作られるオキシトシンという神経伝達物質が信頼を築く上で重要な働きをしていることが「信頼ゲーム」という実験によって分かりました。オキシトシンの機能や他の重要な脳内物質との相互作用をさらに研究すると、自閉症など社会的相互作用の不全を特徴とするいろいろな疾患について多くのことがわかってくるとも言われています*1。

また近年では、感情の分析が進み、世に出ているものとしてはロボットのpepperに内分泌系の数値を設定し、その数値の変化によって感情がどのように変わるかを作り上げるシステムも存在します*2。





以上のような感情によって、「感情ヒューリスティック」を考慮する必要があります。感情ヒューリスティックとは、ヒューリスティクの中でも、対象物への感情によって、判断が変わるというものです。人間は、好きなものに対してはそのリスクを過小評価する傾向があります。




■ロマンと算盤
これまでシステム1とシステム2によって、「人間が信じる」ことのメカニズムを考えてきました。ここでは、自分なりに「人が信じる」時の心の状態を整理してみます。

 

以下の図は、心の状態を①感情のプラスマイナスの軸、②感情のボラティリティ(変動幅)で整理したものです。心の状態を主観確率分布で表していて、縦軸に確率の大きさ、横軸に事象が起こった時の想定感情を設定しています。主観確率分布は、個人の経験や感覚に基づくものなので、人それぞれに、かつ状況毎に確率分布が設定されれるイメージです。


信用1


①「期待」:感情がプラス、ボラティリティが大きい
②「確信」:感情がプラス、ボラティリティが小さい
③「不安」:感情がマイナス、ボラティリティが大きい
④「絶望」:感情がマイナス、ボラティリティが小さい

 

身近な例で考えてみましょう。例えば、占いに行こうとしている人を考えます。その人は、人生に対して漠然とした③不安を抱えており、自分の将来について誰かに相談したいと思っていました。そこで占い師の所に行ったところ、「来年はきっと良い年になる」と言われ、その人は来年に①期待を持つようになりました。この時に、占い師の言ったことに根拠がなくても、システム1が「来年はきっと良い年になる」という言葉に強く反応して、信じたことで、確率分布の山の位置*3が大きく変化すると考えます。この場合は、システム1(ロマン)がシステム2(算盤)よりも強く働いた形になります。もちろん、人によっては占いを信じない人も多いと思います。その場合は、システム2の方が優位に働いています。



■今回のまとめ
今回は、「信頼・信用(TRUST)」を根本から考え、私たちはどんな考え方で物事を信じているのかを考え、論理と感情の観点から思考のタイプを考えてきました。そして、人が物事を信じる時の状況を4つの場合に分けて整理しました。次回はビジネスの観点から「信頼・信用(TRUST)」について考えていきます。



 

*2 cocoro SB、Pepperの心を理解する、Pepper感情生成エンジンの秘密  レポート

*
3  MAP推定値を示す。最大事後確率(MAP)推定は、統計学において、実測データに基づいて未知の量の点推定を行う手法である。

血糖値測定×IoT進化論  -非侵襲型血糖値測定とAppleも狙うバイタルデータ×AI-

 

■病気や不調の9割は血糖値の問題
近年、健康への意識も高まり、血糖値を気にされている方も多いのではないでしょうか。
そもそも血糖値とは血液に含まれるブドウ糖の量の数値です。食事をして、炭水化物等が消化吸収されると、ブドウ糖となって血液に入り、「血糖」となります。血糖は脳や筋肉など身体が活動するためのエネルギーとして使われます。

 

この血糖は私たちの重要なエネルギー源になっていますが、その一方で私たちが患う病気や不調の9割以上は血糖が原因であるとも言われています。

また、厚生労働省の2016年の国民健康・栄養調査では、国内で糖尿病が強く疑われる成人が推計1千万人に上ることが分かっています。

 

今回はこの血糖の問題に焦点を当てた後、血糖の問題を解決する第一歩として、血糖値の「見える化」が技術的にどこまで進んでいるかを紹介します。

 
■血糖値スパイクが脳梗塞心筋梗塞・がんを引き起こす
血糖値に関わる症状として糖尿病が挙げられますが、糖尿病以外にも近年「血糖値スパイク」が注目されています。血糖値スパイクとは、普段は正常な血糖値が、食後の短時間だけ急上昇し、その後急降下する現象です。

血糖値スパイクが起こると、何が問題なのでしょうか。具体的には動脈硬化が起こり、それが心筋梗塞脳梗塞を引き起こすと言われています。
近年、イタリアの最新の研究で、そのメカニズムが分かってきました。その研究では、血管の内壁の細胞を糖分の多い液と少ない液にかわるがわる浸し、血糖値の急上昇が繰り返されているような状態にしたところ、細胞から大量の活性酸素が発生することが判明しました。活性酸素は、細胞を傷つける有害物質です。身近な例では、りんごを切ってそのままにしておくと褐色になっていき、そのまま腐っていく酸化現象が挙げられます。これと同じような現象が体内でも起こっているのです。血糖値スパイクの状態を2週間続けると、細胞のおよそ4割が死んでしまいました。実はこれが動脈硬化につながる原因なのです。

血管の壁が傷つくと、それを修復しようと集まった免疫細胞が、傷ついた血管壁の内側に入り込んで壁を厚くし、血管の内側を狭めていきます。それが動脈硬化です。血糖値スパイクが繰り返し起きている人は、血管の多くの場所で少しずつ動脈硬化が進行し、やがて心筋梗塞脳梗塞を引き起こすリスクが高まると考えられます。

以上のような重大な症状に加え、血糖値スパイクは身近な仕事にも影響を与えることがあります。血糖値が急に上がり、その後急激に血糖値が下がった際の症状として、強い空腹感、頭痛やイライラ感、集中力・判断力の低下などを引き起こすことがあるのです。このような状態になっていては、生産性が上がらず仕事がなかなか終わらない状態になってしまいます。​

血糖値スパイク

血糖値スパイクの発生イメージ

血糖値スパイクが起こっているか否かは通常の健康診断などでは把握することができません。なぜなら健康診断の時には、朝食を抜いた状態で採決するため血糖値の平均値は正常なままだからです。そのため、一般の人は自分の身に血糖値スパイクが起こっていることに気づきません。

血糖値を測定するために血糖自己測定(SMBG)が広く行われていますが、現在行われている血糖測定法は、指などを針で刺して採取した血液を測定するため、煩わしさとともに苦痛や精神的ストレスなどがあります。

また、指に刺すための針やセンサチップなどの消耗品のコストが高く、年間約20万円/人の経済的負担を強いられています*1。
 

Blood_Glucose_Monitoring

血糖値測定イメージ

■血糖値測定器の進化 
近年、血糖値測定器の発展が非常に進んできました。
血糖値測定器の発展は糖尿病の治療をしている方だけでなく、日ごろから健康に気を遣っている方や仕事のパフォーマンスを気にされている方にまで影響を与えることにもなるでしょう。

その発展のベクトルとして以下の2つがあります。

1. 侵襲→非侵襲​

2. ポータブル→ウェアラブル

 

これらの発展の仕方を簡単にまとめました。各機器の詳細については次に説明します。​
glucomatrix

・侵襲×ポータブル 
従来は採血をして血糖値を測定するのが当たり前でした。しかし、2017年1月に登場した「FreeStyleリブレ」(以下、リブレ)は、皮下に入れたセンサーで間質液中のグルコース濃度を連続的に測定し、リーダーでスキャンすることで、連続測定したグルコース濃度の変動パターンを表示するシステムです。


リブレは、グルコース値を測定する500円玉サイズのパッチ式センサーと、その測定値を読み取り表示するリーダーから構成されています。センサーを上腕後部に装着すると、センサーの極細フィラメントが皮下に挿入され、グルコース値を測定します。

 

患者評価では、96%の患者がリブレによる測定を「簡単」「苦痛や困難さを軽減する」と回答したと言われています。

 

リブレで測定できるのは間質液中のグルコース値です。血管外の細胞間にある液体成分を測定します。血糖値の変化に対する間質液グルコース値の生理的なタイムラグは約5~10分間とされています。

得られたグルコース濃度の測定結果は、指先に針を刺す血糖自己測定(SMBG)との比較した場合に精度の差が10%程度であるため、長期間にわたり正確に血糖を測定ができることが分かっています*2。 これにより自分で血糖値を測定して、システムが血糖値トレンドを推定し、糖尿病の血糖コントロールをサポートします。



*2 The Performance and Usability of a Factory-Calibrated Flash Glucose Monitoring System. Diabetes Technology & Therapeutics. Volume 17, Number 11, 2015.
リブレ

 

■非侵襲×ポータル
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の山川考一グループリーダーらは、世界で初めて手のひらサイズの高輝度中赤外レーザーの開発に成功し、一定の条件の下、国際標準化機構(ISO)が定める測定精度*3を満たす非侵襲血糖測定技術を初めて確立しました。

 

*3 血糖値75mg/dl未満では±15mg/dl以内、75mg/dl以上では±20%以内に測定値の95%以上が入っていれば合格


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波長1 µmの近赤外光を発振するイッテルビウム添加ヤグレーザー(左)と、その光を同程度の大きさのパラメトリック発振器(右)で波長を変換し、高輝度中赤外レーザー(波長:6μm〜9μm)を発生

上記の装置は2018年1月現在ではまだ実用化に至っていません。現在非侵襲のポータブル血糖値測定器としては「KETTO」があります。「KETTO」はフィンガークリップに指をはさむだけで、針を使わずに痛みなく血糖レベルを測定できる健康管理機器です。


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Ketto

この製品は、MHC法(Metabolic Heat Conformation Method)という方法を用いています。この方法では、血中のブドウ糖が酸化するときに発する熱と酸素供給の関係に着目し、各種センサーから検出された温度や血中酸素飽和度などを用いて血糖レベルを算出することで針を使わない血糖レベルの測定を可能にしました。
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MHC法の模式図(参照 Noninvasive Measurement of Glucose by Metabolic Heat Conformation Method)


・侵襲×ウェアラブル

近年、ウェアラブルバイスで血糖値を測定しようという試みが出てきました。

PKvitalityという企業は、K’s watchという侵襲型ウェアラブル血糖値測定器を開発しています。

K’s watchには血糖レベルを確認するために小さな針とセンサーが付属しています。具体的には、ウェアラブルバイスの下(写真中のデバイスの皮膚側)には、間質液を採取して分析するために0.5mmの小さな針が付属した、取り外し可能なセンサーが付いています。

K’s watch上記のリブレの場合と同様に、間質液中のグルコース濃度から、血糖値を算出しています。



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参照
URL http://www.pkvitality.com/ktrack-glucose/
 
  
・非侵襲×ウェアラブル 
非侵襲かつウェアラブルで血糖値を図ることは、従来から医療業界の課題でした。この課題を解決しようとする企業が出てきました。それがイスラエルベンチャー企業”Gluco Vista”です。

Gluco Vistaは赤外線を使って血糖値を測定するウェアラブルバイスを開発しています。

ウェアラブルバイスが血中のグルコースが放つ信号を捉え、それを独自のアルゴリズムで解析することによって、非侵襲ながら米国FDA(Food and Drug Administration)のガイドラインに沿った精度の高いを実現しています。(正確な臨床結果はClinical Studiesに記載されています。)

また、測定した結果はスマートフォンタブレットにも連携され、血糖値を確認・管理することができます。

これにより、いつでも、どこでも、誰でも簡単に血糖値を測定することができる時代が来るのです。
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GlucoVistaのウェアラブルバイス

 
Appleも狙う、バイタルデータを用いた機械学習 
以上のように血糖値測定器が非侵襲かつウェアラブルになり、そのデータをクラウド上に蓄積することで、血糖値のデータを限りなくリアルタイムかつ大量に取得することができるようになります。

そうなると、AIを使った血糖値管理手法が発達するでしょう。

 

従来から、血糖値以外に血圧や体重、歩数などを説明変数とした機械学習は行われていました*5。

例えばAppleApple WatchのDeepHeartアプリユーザー14,000人のデータから、そのユーザーが糖尿病であるか否かを85%の精度で判定することができています*6。
この測定はApple Watchに組み込まれているセンサーを使って心拍数と歩数を考慮したアルゴリズムで行っています。

 

しかし、これに血糖値のリアルタイムデータを変数として追加することで血糖値スパイクを把握できたり、生活の中での行動と血糖値の因果関係が格段に明確になり、日ごろの血糖値管理が容易になります。

 

IoT、クラウド、AIでより緻密な治療が可能になる日も近いかもしれません。



 
*6 Apple Watch app 85 per cent accurate in diagnosing diabetes 

 

■参考文献  
 
・糖尿病1千万人
 
 
 
・非侵襲×Fixの方法
 
・リブレの紹介
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO16072050Y7A500C1000000?channel=DF260120166496 (血糖値一般のことについても記載) 
 
・Glucose Sensing for Diabetes Monitoring: Recent Developments
www.mdpi.com/1424-8220/17/8/1866/pdf