外資系コンサルの資料解説 [技術領域全般]
最近、「技術系のリサーチ資料って、どんな風にまとめるんですか?」と聞かれることが増えてきました。
リサーチ自体は、コンサルティングファームやシンクタンク、リサーチ会社が行い資料をまとめることが多いです。そこで作成された資料は、ほとんど外部に公開されることはありません。
しかし、政府系の調査報告書などの場合に、実は公開されているものがあります。公開されている資料は、無料であるにもかかわらず資料のレベルが高く、僕がリサーチ業務で資料を作成する際にも参考にしています。
今回は、公開されている資料の中で、コンサルティングファーム(アーサー・D・リトル)が作成した良質な3つの資料を基に、資料の良いまとめ方のポイントを簡単にコメントしていきます。
1. 平成21年度産業技術調査事業 (技術に関する施策調査)
この資料は、質・量ともにレベルが高いです。資料枚数としては555ページもある伝説的な資料です。
「技術全般」についてリサーチをする場合には、この資料が非常に参考になります。
①調査ステップ、タスク、アウトプットの明確化
どのようなステップで調査を行っていくかを一枚絵に表しています。各検討ステップにおけるタスクと、アウトプットイメージを示すことで、調査の全体像をもれなく表しています。
②MFT分析(Market, Function, Technology)
各事業テーマを、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の観点から分析しています。ここでは、市場と技術を「機能」というキーワードで突合させ、ニーズとシーズのマッチングを図っています。ADLの得意な手法ですね。
技術系の調査をする時には、このフレームワークは非常に分かりやすく、調査自体もしやすいです。
③詳細なロジックツリー
MFTの切り口で、自動車業界をテーマとしてロジックツリーを作ったものが以下のスライドです。
非常に細かくロジックツリーが作られています。この1枚を作るために、どれほど時間がかかったのでしょうか。。。このスライドは特に知力・体力の結晶だと思います。
2. IoT社会で重要となるデータ処理・制御技術等に関する調査
こちらは、現在ホットなIoTを扱ったものです。今では、データを扱ったビジネスをしている企業も多いので、データビジネスに関する資料を作成する際に参考になるかと思います。
①全体から詳細 × 市場と技術
調査対象となる分野を決めた後にユースケースを深堀しています(全体⇒詳細の流れ)。この時にADL得意の市場ニーズと技術シーズのマッチングを取り入れているところがGoodです。これによって、調査の網羅性と実現可能性を示すことができます。
②プロセス単位の「価値分析」
上のスライドは、製造業でデータを扱うときの提供価値を、作業フロー(プロセス)単位で分析したものです。プロセス単位で分析することで、ここでも漏れのない調査を心掛けていることが伺えます。
また、提供価値を4種類に分け、その中で漏れなくそれぞれの価値が当てはまるように設計されています。
③重要情報を1枚絵に
各調査分野の調査背景、ニーズ、ユースケース、システムイメージを全て示し、その上で技術的に実現可能性をもれなく検討されている力作です。
右側の「実現に向けた課題」の部分も、以下の項目でデータフローを漏れなくカバーされています。
cf.データ収集、データ流通、データ蓄積、データ解析、表示・制御、セキュリティ
この一枚に書かれている情報が有機的につながり、それらの情報が「なぜ必要か」を一つ一つ示しています。
3. 平成26-27年度成果報告書 Cyber Physical Systemに関する動向調査
こちらも今ホットな、Cyber Physical Systemについてまとめた資料です。
①詳細なバリューチェーン × 活動主体
バリューチェーンを詳細にもれなく書いた上で、そのバリューチェーンに関わる活動主体を示しています。これによって、誰がどのプロセスで、どのような影響を受けるかを一覧化できます。
②技術レイヤー × 技術適用場所
技術(特にソフトウェア)にはレイヤーがあるので、それらを網羅しつつ、そのレイヤーが「どこ」に使用されているかを、(1)エンドポイント/ユーザー、(2)ネットワーク、(2)データセンター/クラウドの観点から示しています。
技術のより詳細な説明をする際にも、全てMECE感が出ています。
・その他資料
以下の資料も質が高く、資料作成時の参考になるかと思います。
平成25年度産業技術調査事業重要技術分野に関する技術動向等調査
平成24年度総合調査研究 我が国企業の海外展開及びイノベーションによる競争力分析調査事業
買物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する調査報告書
これまで紹介してきた資料作成方法が、「技術系のリサーチ資料って、どんな風にまとめるんですか」という質問への簡単な回答です。具体的な細かいテクニックやフレームワークなどについては、各種資料をご覧ください。
ただ、具体的なテクニックも重要ですが、それ以上に大事なのは、徹底的なMECEと、示唆を出そうとする姿勢・熱意だと思います。
業務の中で、従来のフレームワークが使えない状況にぶつかることもよくあります。その際に差がついてくるポイントは、熱意を持って最後まで情報を整理し、その情報から何が言えるのかを極限まで凝縮できるかどうかだと思っています。
僕もまだまだ勉強中の身ですが、少しでもお役に立てる情報を提供できましたら幸いです。
つづき