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リサーチ・デザイン 【定性分析】

前回では、分析をするにあたって、データに対してどのようにアプローチをしていくかを、様々な形で分類して議論しました。 
これからは、前回分類した中で、一つの大きな分け方である「定性・定量」について、掘り下げていきます。特に今回は「定性分析」について考えていきたいと思います。
 
■定性分析(定性的研究)とは
定性的研究とは、インタビューや観察結果、文書や映像、歴史的記録などの質的データ(定性的データ)を得るために、社会学社会心理学文化人類学などで用いられる方法です。狭義の調査だけでなく、実験や観察、インタビューやエスノメソドロジー、文書や映像の内容分析 (content analysis)、会話分析、住み込んでの参与観察 (participant observation)、各種のフィールドワークなど、多様な手法を用いた調査方法を指す概念です。
 
ここで、定性分析を構造化して考えていきたいと思います。構造化した図を以下に示します。
 
定性分析 構造化

*「リサーチ・デザイン―経営知識創造の基本技術ー」(白桃書房, 著:田村正紀)より 
 
■比較事例分析
まずは、分析の対象となる事例の数によって、「比較事例分析」か「単独事例分析」に分かれます。比較事例分析は、事例の数が2~30の時に用いられます。その中でも、事例数が約20までの場合は「ミルの方法」が使用され、約20~30の場合は「QCA(質的比較分析)」が使用されます。
ミルの方法とは、簡単に言うと、一致点と差異点をさがす方法です。一致点をさがすのは帰納的アプローチ、差異点をさがすのは消去法によって選択肢を絞り込むようなアプローチです。様々な事例を要素に分解して、事例の引き金となっている要素を炙り出します。
ここで着目すべきは、QCAです。QCAは近年着目度が高まってきており、
QCAは、(複合的な)因果関係の可視化やその解釈が分析の要諦となることから、例えば、概念形成や類型論といった、QCAと同様に論理や集合論と密接な関係がありながらも異なる射程をもつ、つまり結果(outcome)を想定しない他の質的分析法とは一線を画している(Schneider and Wagemann 2012,8)、とも言われています。
*参考文献「社会運動研究における質的比較分析(QCA)の適用可能性について」(上谷直克)より

■QCAの概要
QCAは対象事例について最大限可能な比較を行います。QCAの分析手順は以下の通りです。
1. 対象の選択
2. 原因条件の絞り込み
3. 結果のコード化
4. 真理表のブール代数分析
 
以上の手順を簡単に言うと、対象事例の要素(原因条件)を全て洗い出して、その要素の組み合わせの中で、もっとも因果のある要素の組み合わせを導出します。
 
3. 結果のコード化は「○○に該当すれば1、該当しなければ0」のように二値化して表します。二値化までできれば、あとは専用のソフトでさくっと計算(4. 真理表のブール代数分析)できます。
QCAで難しいのは、2の原因条件の絞り込みだと思います。原因条件を出してくるのは機械的にできず、人間の頭を使わなければなりません。そのため、原因条件には漏れが発生する可能性があります。
 
ここで、すでに気づかれた方もいるかもしれませんが、定性分析と言いつつ、結局は数量化しています。そして、論理計算に落とし込んで結果を導出しています。ここで大事なのは、いかに分析を論理的に行うかということです。一律に二値化可能であれば良いですが、0,1ではなく0.1, 0.2刻みで表現されるものも多々あります。その時には、ファジィ集合を使用したfQCAという方法を用います。
 
ここまで考えると、もはや定性分析なんて存在せず、すべて定量分析として扱えるのではないかと思えてしまいます。しかし、事例が少なかったり、定量データが少ない場合は、そううまくはいきません。
一般に先端的な経営現象を研究しようとすればするほど、観察できる事例は極めて少数しか存在せず、統計分析に必要な標本数を確保できません。また、経営における重要問題ほど調査の困難性から調査対象を少数の事例に限定しなければならない場合も多いのです。
このような状況において、特に事例が1つしかないような場合での分析方法が過程追跡、適合法、反事実分析です。
特に、過程追跡は、ミルの方法やQCAの補完機能も果たしています。過程追跡とは、時系列でその事例を追っていく方法です。時系列×システム思考に近いと思います(システム思考についてはできれば別の機会にまとめて投稿したいと思います)
例えば、1つの企業の中で起こった事象を時系列で追っていきます。製品Aを開発した翌年に、関連する製品A’を開発したなど、具体的な事象を時系列でならべ、それぞれの事象の関連性を読み解きます。このように関連性を見ていくことで、ミルの方法やQCAでの分析結果と比較して、事象の関連性がありえないかどうかをある程度検証することができます。システム思考に慣れている人であれば、この分析は比較的行いやすいと思います。
 
反事実分析は、探偵のような分析方法です。分析は2つの方向から行います。1つ目が、当時失敗した原因について、本当にそれが引き金となっていないとして分析する方法です。そこからスタートして、因果関係を分析します。2つ目が、当時行ったことによって、「起こるはずの事象」を分析する方法です。よく探偵がテレビで、「殺人現場にあるはずのものが、そこにはなかったんですよ。」と言っていますが、まさにこの考え方です。「起こるはずの事象」を考えることによって、因果関係を明確にすることができます。

■終わりに
今回は定性分析の様々な方法をざっくりと説明してきました。
次回以降のどこかの投稿で、具体的な定性分析例を示せて行けたらと思います。