【図解】取引の歴史-キャッシュレスと未来の形-
今回は、人間の取引がどのように変わり、その中でお金自体もどのように変わってきたかを振り返ってみます。また、今後私たちが生活していく中で、お金の概念がどのように変わっていくかを考えてみたいと思います。
■目次
- 取引の歴史の全体像
- 物々交換から「お金」の出現
- 元祖キャッシュレス 小切手・クレジットカード
- 取引の電子化
- Before Blockchain, After Blockchain
- 取引の歴史は「ゲームチェンジ」の連続
取引の歴史の全体像
まず、取引の歴史の全体図を以下に示します。
図:各種情報に基づき筆者作成
上記の図では、これまでに誕生した取引の形を、以下の4つの観点から時系列で示しています。
1. 取引方法
2. タッチポイント
3. 信頼の(主な)担保者
4. 技術
それでは、取引の歴史を順番に見ていきます。
物々交換から「お金」の出現
そもそも人と人との取引は物々交換から始まりました。これは、例えば自分が釣った魚と誰かが育てた野菜を交換する方法ですが、1つ問題がありました。それは物々交換をするためには、「自分は相手が持っている物を求めていて、相手も自分が持っている物を求めている」状態が必要だったことです。この状態を経済学では「欲望の二重の一致」と言います。この欲望の二重の一致が起こる確率はかなり低いのです。
そこで、取引の利便性を考え「欲望の二重の一致」の困難を解決するために、物々交換の代わりに貨幣でやり取りをするようになりました。貨幣の機能には、(1)支払い、(2)価値の尺度、(3)蓄蔵、(4)交換手段があり、どれか1つに用いられていれば貨幣と見なせます。貨幣の形は、貝殻などを使用したトークンから、金・銀などの金属に変わり、現在でも使用される硬貨、紙幣になりました。
元祖キャッシュレス 小切手・クレジットカード
金額が大きな取引など、重要な場面においては貨幣だけでやり取りをするのは様々な懸念、限界があります。そこでまずは契約書が生まれました。これによって取引への信頼を高めています。
その後、小切手やトラベラーズチェックの登場があり、1950年代アメリカでは消費ブームが起こっていました。その頃は多くの信販会社(商品やサービスの代金を立替払し、後から請求する会社)が生まれ、消費者は月賦でモノを買い、多くの信販カードを持ち、毎月送られて来る何枚もの請求書が存在していました。そのような状況の中で、何に対してもどこでも使える汎用クレジットカードが登場しました。
その背景としては
・米国では膨大な小切手処理、高額紙幣の信用が低く使いにくい(当時の偽札など)
・社会生活に必要不可欠な信用情報(クレジットヒストリー及びクレジットスコア)を構築する手段や、使用者自身の信用を証明する手段としてクレジットカードが最も一般的
・日常的な消費に当たりごく少額の支払いであってもクレジットカードによる支払が可能
等がありました。そのため、特に米国ではクレジットカードの保持及び使用が多いのです。
取引の電子化
硬貨や紙幣をモノ(物質)として使わなくても、お金を使用する際に本質的に起こっていることはただの数字の移動に過ぎません。硬貨や紙幣は、数値情報を物質に化体させただけのものなのです。時代が移り行くについて、人間はテクノロジーを発展させ、段々と物質から情報を解放できるようになりました。次からは、テクノロジードリブンのeコマースの発展等を見ながら、具体的に取引がどのように変わったかを見ていきましょう。
1990年代ではインターネットが登場し、ネット上で買い物ができるeコマースが発展しました。その時にはインターネット上のセキュリティ面の心配がありました。しかし、1994年にウェブブラウザ開発のネットスケープコミュニケーションズが、高セキュリティ通信プロトコルTSLの先駆けとなる通信方式「SSL2.0」を提唱しました。
ただ、どこの誰かも分からない相手に、クレジットカード番号などを教えたくはありません。かといって銀行振り込みでは手数料がかかる上に、「支払いをしても商品が届かないかもしれない・・・」という先払いの不安があります。また、そもそも売り手側も零細企業や個人が多いため、ほとんどクレジットカード会社の審査に通りませんでした。そこで、イーロン・マスクやピーター・ティールらが創ったペイパルはこれらの問題を解決しました。
ペイパルが金銭の授受を仲介することで、取引先にクレジットカード番号や口座番号を知らせる必要がなく、比較的安全なサービスを提供できるようになりました。さらに、売り手はペイパル口座を簡単に開設でき、月額利用料無料、手数料も2-4%弱と低率で、加えて取引に問題のある場合には返金する「買い手保護制度」も導入されています。
ペイパルは見ず知らずの人同士の取引に「信用」と「少額決済」の自由を与えました。これによって、2013年には年間の決済金額は1800億ドルにもなりました。
また、電子マネーも実用化され、特に交通機関や小売り等で使用されるようになりました。
その後PCを使って取引をしていた時代から、スマートフォンをつかって取引をする時代になりました。いつでも、どこでも、誰でも、BtoB, BtoCでもCtoCでも取引を行えるようになりました。取引が容易になり、かつ多くの人が消費者にも生産者・事業者にもなったためで、取引相手が本当に「信用できるか」に意識が行くようになりました。そこで登場したのが評価経済です。食べログの評価やFacebookの「いいね」、アリババの芝麻信用のように、様々なスコアが見える化されるようになりました。これによって、取引をする際にも、「スコアが高い店や人であれば信用できる」といった新しい考え方が生まれてきました。この考えは、モノの売り買いだけでなく、モノのシェアにも使われるようになりました。シェアリングエコノミーの代表例であるUberやAirbnbのように、自社では車や家を全く持っていないが、人とモノ(車や家)をマッチングさせることに優れたプラットフォームが台頭しました。モノを売るのではなく、シェアも可能になることで、さらに供給者のハードルが下がったため、利用者側から供給者への信頼・信用がより重要になりました。
また、近年はQRコード決済が世界中で普及してきています。QRコードの技術自体は、1994年にデンソーウェーブが開発したものですが、それが時を経て世界中の半数以上の人がスマホを持つようになり、多くの人がスマホでQRコード決済ができるようになりました。特に中国では、アリペイやウィーチャットペイなどのQRコード決済が幅広く普及し、屋台で店側がQRコードを表示して、ユーザーはキャッシュレスで商品を購入できるレベルにまでなっています。
以上のように取引が時代とともに変化しています。取引の変化の観点を整理すると、特に以下の3つが急激に進み、世界中で取引の「最適化」が行われているのです。
・より簡易に:いつでも、どこでもスマホで
・より早く、より速く:電子化で取引スピードアップ
・より多数から多数へ:誰もがスマホでモノを売買可能
次は、ブロックチェーンの登場によって、取引の形がさらに変化している様子を見ていきます。
Before Blockchain, After Blockchain
近年、お金に新しい仲間が入りました。それがビットコイン等の暗号通貨です。ビットコインの登場によって、従来の通貨からデジタル通貨である暗号通貨を信頼する人も出てきました。なぜなら、国が信用を保証する通貨は、国がデフォルトを起こしてしまうとただの紙切れになってしまいますが、暗号通貨は国に関係なく存在するためです。例えば、ギリシャ危機等が起こった際に、もはや国の通貨を信用していないために暗号通貨が買われるといった事象も起こっていました。
ここでは、国(政府)への信用よりも、暗号通貨のコミュニティや暗号通貨の技術への信用が見られたと思います。
ここで、暗号通貨に使用される技術の中で、「ブロックチェーン」に注目します。
ブロックチェーンは分散暗号化台帳(取引履歴を暗号化してつないでいったもの)で、ビットコインのような暗号通貨のベースとなっています。ビットコインによる送金では、従来の中央集権型のシステム(管理者が利用者からの送金情報を受けて帳簿を更新)ではなく、参加者が全体として管理者の機能を果たしている分散型のシステムをとっています。
このようなブロックチェーンを活用したP2Pのアプリケーションは分散型アプリケーション(Dapps: Decentralized Applications)と呼ばれます。
Dappsは次の要件を満たすものを指すと言われています。
(Dappsに投資するDavid JohnstonのVCファンドによる定義)
①アプリケーションがオープンソースである
②トークンを利用している
③ユーザーの合意のもとでの改善
ここで、Dappsを使って新たな経済圏を作ろうとしているのが、LINEや楽天です。特にLINEの動きは早いです。
2018年8月31日、LINEはトークンエコノミー構想を発表しました。これによってユーザーは同システムに参加するDappsや、今後参加を計画している既存のLINEサービスに登録・利用すると、アクションやサービスへの貢献に応じてLINK PointやLINK(LINEが設定したトークン)を獲得できるようになります。現在でもLINEは、リアル世界のお金をLINE PAYを通して、少しずつLINEの経済圏にユーザーを誘っています。
LINEの強みは日本で強力なコミュニケーションツール・インフラになっていることです。そのため、一人一人に対して、LINE側からコミュニケーションをとることもできます。それは誰に対しても通知を送ることができるということを意味します。そのうち、LINEの経済圏だけで生活ができる(商品を買ったりできること)かもしれません。
図:LINEが発表したLINK Pointの全体像
またさらに、スマートコントラクトが実現されると、より取引が滑らかになります。スマートコントラクトとは、「コンピュータが読めるプログラムを書き、当事者双方の署名付きでブロックチェーンに登録することでそれを契約締結を見なし、法執行機関なく自動的に執行されるようにする」というアイデアです。取引の「契約」の部分が安全に自動化できるため、人の手を介する手間を削減できます。これにより、さらに取引のスピードを速めることができるのです。
取引の歴史は「ゲームチェンジ」の連続
これまでの歴史の中で、取引の方法やその取引で使用される通貨に関してゲームチェンジが起こってきました。例えば、インターネットが構築されたことで、世界中の人と瞬時に取引ができるようになったり、金銀銅を硬貨に使用していて、採掘・管理が難しくなった国は紙幣を使うようになったりするなどのゲームチェンジがありました。さらに、近年では暗号通貨の登場もあり、ほぼ価値のない電子情報(暗号通貨)だったものが、急に市場で価値を持つことも出てきました。しかも、ビットコインがビットコインキャッシュと分裂したときに価値が下がらなかったように、これまでにない新たな価値・変化が現れ、ゲームチェンジが起こっているように見受けられます。
これまでの歴史を振り返ると、非連続の変化(通貨のゲームチェンジ等)が何回も発生しています。また近々、私たちの生活に影響を与えるような変化が起こるかもしれません。
(この投稿はnoteにも掲載しています。)
・参考文献
世界史の真相は通貨で読み解ける: 銀貨、紙幣、電子マネー…は社会をどう変えたか
- 作者: 宮崎正勝
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/07/24
- メディア: 新書
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