【図解】取引の歴史-キャッシュレスと未来の形-
今回は、人間の取引がどのように変わり、その中でお金自体もどのように変わってきたかを振り返ってみます。また、今後私たちが生活していく中で、お金の概念がどのように変わっていくかを考えてみたいと思います。
■目次
- 取引の歴史の全体像
- 物々交換から「お金」の出現
- 元祖キャッシュレス 小切手・クレジットカード
- 取引の電子化
- Before Blockchain, After Blockchain
- 取引の歴史は「ゲームチェンジ」の連続
取引の歴史の全体像
まず、取引の歴史の全体図を以下に示します。
図:各種情報に基づき筆者作成
上記の図では、これまでに誕生した取引の形を、以下の4つの観点から時系列で示しています。
1. 取引方法
2. タッチポイント
3. 信頼の(主な)担保者
4. 技術
それでは、取引の歴史を順番に見ていきます。
物々交換から「お金」の出現
そもそも人と人との取引は物々交換から始まりました。これは、例えば自分が釣った魚と誰かが育てた野菜を交換する方法ですが、1つ問題がありました。それは物々交換をするためには、「自分は相手が持っている物を求めていて、相手も自分が持っている物を求めている」状態が必要だったことです。この状態を経済学では「欲望の二重の一致」と言います。この欲望の二重の一致が起こる確率はかなり低いのです。
そこで、取引の利便性を考え「欲望の二重の一致」の困難を解決するために、物々交換の代わりに貨幣でやり取りをするようになりました。貨幣の機能には、(1)支払い、(2)価値の尺度、(3)蓄蔵、(4)交換手段があり、どれか1つに用いられていれば貨幣と見なせます。貨幣の形は、貝殻などを使用したトークンから、金・銀などの金属に変わり、現在でも使用される硬貨、紙幣になりました。
元祖キャッシュレス 小切手・クレジットカード
金額が大きな取引など、重要な場面においては貨幣だけでやり取りをするのは様々な懸念、限界があります。そこでまずは契約書が生まれました。これによって取引への信頼を高めています。
その後、小切手やトラベラーズチェックの登場があり、1950年代アメリカでは消費ブームが起こっていました。その頃は多くの信販会社(商品やサービスの代金を立替払し、後から請求する会社)が生まれ、消費者は月賦でモノを買い、多くの信販カードを持ち、毎月送られて来る何枚もの請求書が存在していました。そのような状況の中で、何に対してもどこでも使える汎用クレジットカードが登場しました。
その背景としては
・米国では膨大な小切手処理、高額紙幣の信用が低く使いにくい(当時の偽札など)
・社会生活に必要不可欠な信用情報(クレジットヒストリー及びクレジットスコア)を構築する手段や、使用者自身の信用を証明する手段としてクレジットカードが最も一般的
・日常的な消費に当たりごく少額の支払いであってもクレジットカードによる支払が可能
等がありました。そのため、特に米国ではクレジットカードの保持及び使用が多いのです。
取引の電子化
硬貨や紙幣をモノ(物質)として使わなくても、お金を使用する際に本質的に起こっていることはただの数字の移動に過ぎません。硬貨や紙幣は、数値情報を物質に化体させただけのものなのです。時代が移り行くについて、人間はテクノロジーを発展させ、段々と物質から情報を解放できるようになりました。次からは、テクノロジードリブンのeコマースの発展等を見ながら、具体的に取引がどのように変わったかを見ていきましょう。
1990年代ではインターネットが登場し、ネット上で買い物ができるeコマースが発展しました。その時にはインターネット上のセキュリティ面の心配がありました。しかし、1994年にウェブブラウザ開発のネットスケープコミュニケーションズが、高セキュリティ通信プロトコルTSLの先駆けとなる通信方式「SSL2.0」を提唱しました。
ただ、どこの誰かも分からない相手に、クレジットカード番号などを教えたくはありません。かといって銀行振り込みでは手数料がかかる上に、「支払いをしても商品が届かないかもしれない・・・」という先払いの不安があります。また、そもそも売り手側も零細企業や個人が多いため、ほとんどクレジットカード会社の審査に通りませんでした。そこで、イーロン・マスクやピーター・ティールらが創ったペイパルはこれらの問題を解決しました。
ペイパルが金銭の授受を仲介することで、取引先にクレジットカード番号や口座番号を知らせる必要がなく、比較的安全なサービスを提供できるようになりました。さらに、売り手はペイパル口座を簡単に開設でき、月額利用料無料、手数料も2-4%弱と低率で、加えて取引に問題のある場合には返金する「買い手保護制度」も導入されています。
ペイパルは見ず知らずの人同士の取引に「信用」と「少額決済」の自由を与えました。これによって、2013年には年間の決済金額は1800億ドルにもなりました。
また、電子マネーも実用化され、特に交通機関や小売り等で使用されるようになりました。
その後PCを使って取引をしていた時代から、スマートフォンをつかって取引をする時代になりました。いつでも、どこでも、誰でも、BtoB, BtoCでもCtoCでも取引を行えるようになりました。取引が容易になり、かつ多くの人が消費者にも生産者・事業者にもなったためで、取引相手が本当に「信用できるか」に意識が行くようになりました。そこで登場したのが評価経済です。食べログの評価やFacebookの「いいね」、アリババの芝麻信用のように、様々なスコアが見える化されるようになりました。これによって、取引をする際にも、「スコアが高い店や人であれば信用できる」といった新しい考え方が生まれてきました。この考えは、モノの売り買いだけでなく、モノのシェアにも使われるようになりました。シェアリングエコノミーの代表例であるUberやAirbnbのように、自社では車や家を全く持っていないが、人とモノ(車や家)をマッチングさせることに優れたプラットフォームが台頭しました。モノを売るのではなく、シェアも可能になることで、さらに供給者のハードルが下がったため、利用者側から供給者への信頼・信用がより重要になりました。
また、近年はQRコード決済が世界中で普及してきています。QRコードの技術自体は、1994年にデンソーウェーブが開発したものですが、それが時を経て世界中の半数以上の人がスマホを持つようになり、多くの人がスマホでQRコード決済ができるようになりました。特に中国では、アリペイやウィーチャットペイなどのQRコード決済が幅広く普及し、屋台で店側がQRコードを表示して、ユーザーはキャッシュレスで商品を購入できるレベルにまでなっています。
以上のように取引が時代とともに変化しています。取引の変化の観点を整理すると、特に以下の3つが急激に進み、世界中で取引の「最適化」が行われているのです。
・より簡易に:いつでも、どこでもスマホで
・より早く、より速く:電子化で取引スピードアップ
・より多数から多数へ:誰もがスマホでモノを売買可能
次は、ブロックチェーンの登場によって、取引の形がさらに変化している様子を見ていきます。
Before Blockchain, After Blockchain
近年、お金に新しい仲間が入りました。それがビットコイン等の暗号通貨です。ビットコインの登場によって、従来の通貨からデジタル通貨である暗号通貨を信頼する人も出てきました。なぜなら、国が信用を保証する通貨は、国がデフォルトを起こしてしまうとただの紙切れになってしまいますが、暗号通貨は国に関係なく存在するためです。例えば、ギリシャ危機等が起こった際に、もはや国の通貨を信用していないために暗号通貨が買われるといった事象も起こっていました。
ここでは、国(政府)への信用よりも、暗号通貨のコミュニティや暗号通貨の技術への信用が見られたと思います。
ここで、暗号通貨に使用される技術の中で、「ブロックチェーン」に注目します。
ブロックチェーンは分散暗号化台帳(取引履歴を暗号化してつないでいったもの)で、ビットコインのような暗号通貨のベースとなっています。ビットコインによる送金では、従来の中央集権型のシステム(管理者が利用者からの送金情報を受けて帳簿を更新)ではなく、参加者が全体として管理者の機能を果たしている分散型のシステムをとっています。
このようなブロックチェーンを活用したP2Pのアプリケーションは分散型アプリケーション(Dapps: Decentralized Applications)と呼ばれます。
Dappsは次の要件を満たすものを指すと言われています。
(Dappsに投資するDavid JohnstonのVCファンドによる定義)
①アプリケーションがオープンソースである
②トークンを利用している
③ユーザーの合意のもとでの改善
ここで、Dappsを使って新たな経済圏を作ろうとしているのが、LINEや楽天です。特にLINEの動きは早いです。
2018年8月31日、LINEはトークンエコノミー構想を発表しました。これによってユーザーは同システムに参加するDappsや、今後参加を計画している既存のLINEサービスに登録・利用すると、アクションやサービスへの貢献に応じてLINK PointやLINK(LINEが設定したトークン)を獲得できるようになります。現在でもLINEは、リアル世界のお金をLINE PAYを通して、少しずつLINEの経済圏にユーザーを誘っています。
LINEの強みは日本で強力なコミュニケーションツール・インフラになっていることです。そのため、一人一人に対して、LINE側からコミュニケーションをとることもできます。それは誰に対しても通知を送ることができるということを意味します。そのうち、LINEの経済圏だけで生活ができる(商品を買ったりできること)かもしれません。
図:LINEが発表したLINK Pointの全体像
またさらに、スマートコントラクトが実現されると、より取引が滑らかになります。スマートコントラクトとは、「コンピュータが読めるプログラムを書き、当事者双方の署名付きでブロックチェーンに登録することでそれを契約締結を見なし、法執行機関なく自動的に執行されるようにする」というアイデアです。取引の「契約」の部分が安全に自動化できるため、人の手を介する手間を削減できます。これにより、さらに取引のスピードを速めることができるのです。
取引の歴史は「ゲームチェンジ」の連続
これまでの歴史の中で、取引の方法やその取引で使用される通貨に関してゲームチェンジが起こってきました。例えば、インターネットが構築されたことで、世界中の人と瞬時に取引ができるようになったり、金銀銅を硬貨に使用していて、採掘・管理が難しくなった国は紙幣を使うようになったりするなどのゲームチェンジがありました。さらに、近年では暗号通貨の登場もあり、ほぼ価値のない電子情報(暗号通貨)だったものが、急に市場で価値を持つことも出てきました。しかも、ビットコインがビットコインキャッシュと分裂したときに価値が下がらなかったように、これまでにない新たな価値・変化が現れ、ゲームチェンジが起こっているように見受けられます。
これまでの歴史を振り返ると、非連続の変化(通貨のゲームチェンジ等)が何回も発生しています。また近々、私たちの生活に影響を与えるような変化が起こるかもしれません。
(この投稿はnoteにも掲載しています。)
・参考文献
世界史の真相は通貨で読み解ける: 銀貨、紙幣、電子マネー…は社会をどう変えたか
- 作者: 宮崎正勝
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2018/07/24
- メディア: 新書
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日本は周回遅れ!? 最先端の中国AIライドシェア(DiDi)の技術に迫る
まさか日本と中国がここまで差がついているとは思いませんでした。
中国には、ライドシェアサービスを提供している滴滴出行(DiDi Chuxing)という企業があります。DiDiは2012年に程維(Cheng Wei)という人物が創業し、2018年現在では6兆円を超えるユニコーン企業です。6兆円がどれくらいの企業価値かと言うと、日本企業では自動車メーカーの日産自動車やスズキよりも高く、またデンソーやパナソニックよりも高いのです。
今回は、今注目のDiDiについて、恐らく世界で最も進んでいるライドシェアの技術面に触れながら紹介していきます。
- ■スマホの次に来るもの MaaS
- ■Transportation 1.0 から Transportation 2.0へ
- ■4.5億人以上が利用する怪物サービス
- ■世界トップクラスの配車システム
- ■今後のプラン
■スマホの次に来るもの MaaS
DiDiは、これまで市場を席巻してきた、PC、スマホの後に、将来はライドシェアが次のテクノロジージャイアント(GAFAなど)を創ると予測しています。
そのテクノロジージャイアントにDiDiはなろうとしているのです。
出所:http://d20forum.org/wp-content/uploads/2017/12/11.50_Didi_Transforming-mobility_FINAL.pdf
ここでDiDiの資料では「ライドシェア」と書かれていますが、実態としてはMaaSのことを示しているものと推定されます。
■Transportation 1.0 から Transportation 2.0へ
現在でもライドシェアの他に、カーシェアなどのMaaS(Mobility-as-a-Service)が普及しつつあります。従来、車は「所有」するものでしたが、それがTransportation 2.0では「シェア」するものになります。車をMaaSとして使うことで高い稼働率を実現したり、移動コストを減らしたりすることができます。さらに、車と車がつながることで渋滞の緩和も実現し、より快適な移動が可能になります。
出所:http://d20forum.org/wp-content/uploads/2017/12/11.50_Didi_Transforming-mobility_FINAL.pdf
■4.5億人以上が利用する怪物サービス
DiDiの提供するサービスはタクシーからシェアサイクルまで多岐に渡り、乗車人数は4.5億人以上、1日の利用は2,500万回にも上ります。
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
非常に利用者数が多い分、生じるデータ量も膨大です。1日に発生するデータは70TB以上、1日に処理するデータ量は4,500TBにも上ります。
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
ここで発生するデータを活用して、DiDiは提供するサービスの質を高めています。そのサービスの根幹をなすのが「インテリジェント配車システム」です。このシステムについて、具体的に説明していきます。
■世界トップクラスの配車システム
インテリジェント配車システムでは車両の需要予測をした後に最適な配車をします。
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
需要予測は、乗車履歴や天候データ、交通状況などをインプットデータとして予測を行っています。*1
需要予測の精度はランダムフォレストやGradient Boosting Decision Tree(GBDT)等とも比較し、結果として深層学習(Residual Network)のモデルが最も精度が良かったそうです。*2
DiDiが驚異的なのは、ここで予測した需要に対して供給を調整する方法です。
DiDiは需要がピークになると予測した時間帯に対して、パートタイムで運転手を雇ったり、運賃を変動させて需給バランスを調整しているのです、もしパートタイムの運転手を雇いきれない場合には、DiDiのプラットフォーム上の他のサービス(Mini Busなど)で調整します。ここまで需給バランスを調整可能な企業は他に存在しないのではないでしょうか。
出所:http://d20forum.org/wp-content/uploads/2017/12/11.50_Didi_Transforming-mobility_FINAL.pdf
また、DiDiのシステムにはルート計画機能が備わっています。この機能を使うことで、運転手の稼働効率を高めたり、移動コストを最小化することができます。
さらに、目的地までの到着時間を見積もる機能も備えています。他社でも到着時間を見積もることはできますが、DiDiの予測精度は驚異的です。
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
2015年10月の段階では、予測誤差(MAPE)は36%でしたが、2017年3月には深層学習を用いることで予測誤差を12%近くまで下げています。10分の移動であれば、約1分しか誤差がないことになります。
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
次に、配車の最適化です。DiDiではグラフ理論で用いられる二部マッチング、特にハンガリアンアルゴリズムを使用しているようです。二部マッチングの中には他にも手法があるにも関わらず、なぜハンガリアンアルゴリズムを使用しているかは考察の余地があります。*3
出所:AI at DiDi by Jieping Ye from DiDi
■今後のプラン
DiDiは今後、交通インフラを巻き込んだ「交通大脳」を構築しようとしています。交通大脳とは、AI、交通データ、交通システム、クラウドを使って、交通の予測、最適化、自動化を行うものです。
交通大脳のコントロール中枢は、信号機、標識、監視カメラ、駐車場、標識、街路灯、交通警察官の投入量まで調整します。*4
これにより、道路の渋滞を評価可能になります。そして信号が変わるタイミングを最適化することができます。山東省・済南市のケースでは、344カ所の交差点がスマート化され、済南市民の通行時間を、延べ3万時間節約しています。湖北省・武漢市では、滴滴出行のライドシェアデータと交通管理当局とのデータ結合に成功し、交通の誘導に成果を挙げています。現在、DiDiは20都市と取り組みを進めて、このような渋滞を改善しようとしています。*5
さらに、Didi はグローバル化の歩みを続けています。同社はアメリカでのプロジェクトを諦めビジネスを Lyft に譲った後、ブラジルの配車スタートアップである99に投資しました。また、東南アジアの Grab やインドのOla、ヨーロッパやアフリカ、その他の地域で存在感を見せる Taxify などのいくつかの配車企業とも提携してきました。*6
また、2018年9月27日には日本に進出し、大阪でサービスを開始しています。
今後も中国内でのサービス・技術の高度化を進めるとともに海外への提携も進めていくことになるでしょう。
・参考文献
②http://d20forum.org/wp-content/uploads/2017/12/11.50_Didi_Transforming-mobility_FINAL.pdf
「考えない社会」にどう向き合うか -テクノロジーによる自動化から「経験拡張」へ-
「なんとなく旅行に行きたい」
そんな気分になる時もあります。
このような気まぐれな思い付きに対応してくれるサービスがあります。
それが「ズボラ旅」というサービスです。ズボラ旅では、行き先や予定が決まっていなくても、LINEで出発地を伝えるだけで旅行プランを提案してもらえる。
旅行プランは、サービスインに向けて半年ぐらいかけて貯めたデータや過去のユーザーからの評判が良かった場所などから、旅行業の資格を持っているスタッフがプランを作成しれくれるそうです。
(出所:ズボラ旅HP)
旅行に行きたいと思っている人はたくさんいます。しかし、実際に旅行に行くとなると、参加者の日程調整、ホテルの検索・予約、観光地や昼食の場所など、探して決める作業が多く発生します。この決めていく作業が楽しいという方もいらっしゃると思いますが、現代では情報があまりに多いため「決断疲れ」が起こっています。今回は始めにこのような「決断疲れ」を解消しながら、ユーザーに様々な価値を提供する「無思考型サービス」について触れていきます。
■無思考型サービスの流行
無思考型のサービスとは、従来は人が考えていたことを、サービス側で自動的に考えて設定してくれるものです。そのため、インプットがあれば、自動的にアウトプットが出てくる"End to End"のサービスなのです。
ズボラ旅の場合では、従来は具体的に自分の頭で考えていた旅行計画が、出発地を設定するだけという非常に抽象的なインプットだけで、サービスが成り立ってしまうのです。このように人が考えなくても、自動的にユーザーに価値を提供してくれるサービスが増えています。
例えば、資産運用の分野では「WelthNavi」や「THEO」と呼ばれるロボアドバイザーが、従来は人が考えて手を動かしていた資産運用を自動的にしてくれます。
(出所:WealthNavi HP)
他にも、毎日の献立を決めてくれる「me:new」や洋服を定期的に届けてくれるZOZOの「おまかせ定期便」などが存在し、無思考型のサービスはますます拡大しています。
■無認知、無思考、無行動
無思考型のサービスが流行しつつありますが、今後は無思考だけでなく、
「無認知、無思考、無行動」にまでサービスの幅が広くなると考えられます。
自動運転車はその典型例です。従来は人の目で見て、人が判断し、人の操作で車を動かしていたものを、カメラやセンサーで周囲の状況を検知し、高度なAIアルゴリズムで判断し、ハンドルやステアリングも自動操作で行うことができます。自動運転もレベル5まで行くと完全自動化になり、人間が無認知、無思考、無行動になる車両ができあがります。車を所有⇒頭を使って運転する時代から、車をサービスとして使用⇒移動している間は何も考えず行動しなくても良い時代へと一歩ずつ進んでいるのです。
■「考えない社会」の到来
それではなぜ無思考型のサービスが発展してきているのでしょうか。その理由は大きく2つあると思います。
1. 世の中の情報が多すぎる[ニーズ]
「世の中にある情報は多すぎて理解できない!!」と、ハズキルーペのCMのように叫びたい世の中になっています。具体的には、2014年の段階で生成されていたデータ量(60エクサバイト/月)に対して、2017年はその倍(予測値122エクサバイト/月)になっています。さらに、2020年にはさらにその倍(予測値228エクサバイト/月)になると言われています。
そのため、多くの人は膨大な情報処理に「決断疲れ」を起こしており、決断をしなくても自動最適化してくれるサービスを求めているのです。
2. 情報処理をするテクノロジーの発展[シーズ]
機械学習や最適化アルゴリズムの向上によって、人間が何もしなくても、価値を出してくれることが増えました。例えば、先ほど紹介したWelthnaviやTHEOは人が何もしなくても最適な資産運用を自動的にしてくれます。また、プログラムのライブラリやパッケージが充実し、機械学習が民主化したことで自動最適化を行いやすくなっています。
以上、ニーズとシーズの2つの観点から、無思考型のサービスが増えてきており、「考えない社会」が広がる可能性があります。
■「役立たず階層」の出現
サピエンス全史やホモ・デウスの著者であるユヴァル・ノア・ハラリは、AIの発展によって将来「役立たず階層」が大量発生すると予測しています。*1
人間が持つ肉体的機能と認知的機能が、コスト・質の面で機械よりも低くなってしまった場合、その人は経済的価値を失ってしまいます。このような一定層をハラリは「役立たず階層」と言っているのです。
AIの1つの価値として、一定の処理を自動化し、それを半永久的に繰り返せる部分があります。これは、生産性を高めるという観点では非常に重要なのですが、従来人間が考えて実行していたことを奪ってしまうため、部分的に人を怠けさせる作用があります。「考えない社会」で、本当に人の認知的機能が下がっていくとすれば、それは危機的状況です。
■「経験拡張」によるスーパーヒューマンへ
今後「役立たず階層」に陥らないためには、人の機能を高める必要があります。方法としては、テクノロジーを使って人を教育することで、より効率的により早く人を育てることができます。例えば、現在でもVRを使ってプレゼンテーション能力を高める「VirtualSpeech」というサービスがあります。「VirtualSpeech」は、あたかも会場にいるような没入観の元に、VR空間でパブリックスピーキングのトレーニングを行うことができるサービスです。
(出所: VirtualSpeech HP)
VirtualSpeechは他にも、ジョブインタビューの準備のためのサービスやビジネス英語の練習のためのVRコンテンツを提供しています。
このように、人が未経験のことをVRやARなどで経験する「経験拡張」により、人はこれまで以上に身体的機能・認知的機能を高めることは可能になります。
ここで、重要なのは「経験」を獲得できるということです。
従来型の学習では、本や動画を見て、情報・知識・知恵は得られましたが、「経験」は実際に頭と身体を動かさないと獲得が難しいものでした。
しかし、「経験拡張」が可能になると、頭と身体を同時に働かせる学習が容易になり、学習スピードと理解の深さが向上します。テクノロジーを上手く使うことで、従来の人間の身体的機能・認知的機能を超えたスーパーヒューマンにもなれるかもしれません。
このような人間の身体性等を拡張させる学術領域は「人間拡張(工学)」と呼ばれています。人間拡張の国際学会”Augmented Human”では、2018年のテーマが"Augmented Experience (AX)"、まさに「経験拡張」でした。*2
(出所: Augmented Human 2018)
テクノロジーを使った自動化だけでなく、人間の経験をテクノロジーを使って拡張させ、身体的機能・認知的機能を高める研究が今後も期待されています。
*1:
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,ユヴァル・ノア・ハラリ,リンダ・グラットン,ダニエル・コーエン,ニック・ボストロム,ウィリアム・J・ペリー,ネル・アーヴィン・ペインター,ジョーン・C・ウィリアムズ,大野和基
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2018/06/19
- メディア: 新書
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*2:
人が求める「価値」とは何か ー新たな価値から始まるイノベーションー
前回は人の欲望の話でしたが、今回は「価値とは何か」という所まで議論したいと思います。
これまでの投稿で「価値最大化」と言ってきたものの、そもそも「価値とは何か」については触れていませんでした。そのため、下記では価値についての深堀を進めていきます。
■価値はどのように生成されるのか
そもそも人はどのように情報を処理しているのでしょうか。まず、人の脳で起こっている情報処理の概念図を以下に示します。
図:意思決定のプロセスと価値生成*1
ここでは、人間の感覚器を通して入ってきた情報が、認知・動機付け・感情に影響を与え、その結果として価値が生成されることを表しています。またそこで生まれた価値が意思決定の判断基準となり、それが行動へと結びつきます。
「価値の生成」の際には様々な情報が集められ、それが1次元の情報として比較・処理されます。この時の「価値」について、具体的にどのようなものがあるかを詳しく見ていきましょう。
■価値の分類
大前提として、価値の分類には様々な手法があります。そのため価値の分類パターンをいくつか示していきます。まずは簡潔に価値を分類した一例の図を以下に示します。
(各種文献に基づき筆者作成)
価値の分類を最初の分岐から丁寧に見ていきます。最初は、価値を「意味的価値」と「機能的価値」に分けています。*2
・意味的価値
顧客が製品に対して意味づけすることで生まれる価値です。意味的価値が重要な商品とは、顧客が機能そのものに対して対価を支払うのではなく、その商品に対して特別な意味を見出し、その意味に対して対価を支払う商品です。
・機能的価値
これはシンプルに定量化できる価値です。PCが機能的価値としてわかりやすいと思います。例えば、新しく発売されたPCのスペックが従来の型よりも良ければ機能的価値が向上しています。処理速度、メモリ容量、バッテリーの持ちなど定量化できて分かりやすい指標が多くあります。
また、別の分け方では、米国のマーケティングの権威であるジャグディッシュ・シェス、ブルース・ニューマン、バーバラグロスの共著"Consumption Values and Market Choices"(消費価値と市場選択)*3 』の中で、以下の顧客価値を提唱しています。
-
機能的価値:実利的な目的を果たす能力に関わるもので、性能と信頼性を重視します。
-
社会的価値:人と人とのインタラクションに関わるもので、ライフスタイルや社会意識を重視します。
-
感情的価値:個人が組織の提供物とインタラクトする際の感情面での反応に関わるものです。たとえばパーソナルデータのセキュリティサービスは、個人情報の盗難やデータの損失に対する人々の不安や恐れをビジネスにつなげた例です。
-
認知的価値:好奇心や学習意欲から生まれる価値で、個人の成長や知識の獲得を重視します。
-
条件付きの価値:特定の状況や文脈に依存して生じる価値です。例えば米国では毎年ハロウィーンが近くなるとカボチャとお化けの衣装の価値が上がります。これは「条件付きの価値」の一例です。
さらに、以上の価値よりも「意味」を重要視すべきだという説もあります。
米国のデザイン戦略家のネイサン・シェドロフ、スティーブ・ディラー、ダレル・リアスとの共著"Making Meaning*4 "の中で以下の15の「プレミアムバリュー(極上の価値)」を挙げています。
- 達成感:目標達成に関する誇りと自信
- 美:感覚的快感を引き起こす美的な性質
- コミュニティ:周囲の人々との絆
- 創造:あるものを作りだした満足感
- 義務:責任を果たした満足感
- 啓発:あるテーマについて学んだ満足感
- 自由:束縛されずに生きているという認識
- 調和:全体を構成する各部のバランスがとれていることに対する快感
- 正義:構成、公平な扱いの保証
- 一体感:周囲の人や物との一体感
- 救済:過去の失敗からの解放
- 安心感:損失への不安からの解放
- 真実性:誠実さ、公正さの尊重
- 是認:人や物の価値の外的承認
- 驚き:理解を超えた人や事物にまつわる体験
これらの要素をまとめたものが、上記の図です。
・「感性ポテンシャル思考法」による価値の捉え方
一方で、「意味的価値」を「感性価値」としてとらえ、価値を整理する方法もあります。「感性ポテンシャル思考法 ゼロからのビジネス・イノベーション(著:村田智明)*5」の中では、感性価値を6つに分けて整理をしています。
(「感性ポテンシャル思考法 ゼロからのビジネス・イノベーション」より一部抜粋)
ここでは、感性価値を大きく「直接感性」と「間接感性」の2極に分けています。直接感性とは直感的にハッとして好感をもつ感性で、間接感性とはエピソードなどを聞いて共感する感性です。上記の図では、この2極の中で6つの感性がどのようなポジションになるかを示しています。
ここで重要なのは、人は情報によって操作されてしまう、ということです。本書の中では、テーブルの上に10個並べたグラスを手に取ってもらい、1から10まで順位をつけてもらう実験をしていました。最初は被験者に何も伝えずにグラスの順位付けをしてもらい、その後1つ1つのグラフの情報を明かします。そして、被験者に再度グラスの順位をつけてもらうと 最初と順位が変わっている、というものです。つまり、間接感性が効いていることを示しています。
被験者に公開するグラスの情報には、例えば次のようなものがあります。
グラスの1つに、「サクラサクグラス」という一見普通のシンプルなグラスがあります。しかし、実はこのグラスは、外気とグラス内部の温度差で生じる結露の現象によって、卓上に桜の花が咲くグラスなのです。
底が桜の花の形になっており、グラスの水滴が桜の花びらの模様となって現れます。このグラスを使うことで、厄介に思っていた水滴が、普段の生活にささやかな楽しみをもたらす新しい体験に変わるのです。
・Value Pyramid
さらに、価値をより細かく分けたものがベイン・アンド・カンパニーが提案する"Value Pyramid"というフレームワークです。
Value Pyramidではマズローの欲求段階説を拡張し、ピラミッドの下の価値から、FUNCTIONAL(機能的価値)、EMOTIONAL(感情的価値)、LIFE CHANGING(人生を変える価値)、SOCIAL IMPACT(社会的インパクトを与える価値)として定義しています。
各階層には具体的な価値が示されており、提供価値のモレを確認したり、強調すべき価値は何かを考える時に非常に有益です。
ちなみにこのValue PyramidにはBtoB版も出ており、様々なビジネスで価値を分析する時に使えそうです。
■今後、求められる価値は何か
以上のように、価値の分類を行ってきましたが、使えるフレームワークは状況によって異なります。その時代・環境に求められる価値は何かを考え、その際に上記のフレームワークが使えたら使う、使えければ再度考える必要があると思います。
それでは、未来において求められる価値は何になるのでしょうか。
A.T.カーニーが行った調査「未来の消費者に関するグローバル調査」によると、未来の消費者は「物質的な豊かさ」から「つながりや影響力」を重視する時代になると分析されています。(本調査では10年後の予測をしています。)
このように「つながりや影響力」を重視するようになる背景として、未来の若者の価値観の変化を挙げています。まず、人口動態を見てみると、2027年までに、市場に特徴の異なる6つの世代の消費者が存在するようになり、その中でも「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代の人の割合が増えていきます。2027年には、世界の人口の30%がジェネレーションZとなり、うち15億人はその時既に成人しています。
ここで、割合が多くなる「ジェネレーションZ」は、独特の価値観を有しています。
ミレニアル世代がパーソナル・テクノロジーやデジタル・プラットフォーム登場以前の世界をまだ覚えているのに対し、最年長者がGoogleの創業と同じ年に生まれたジェネレーションZは、真のデジタルネイティブである。ジェネレーションZはミレニアル世代に比べ、よりプライベートな形でコンテンツを共有し、Snapchat(スマートフォン同士で写真・動画を共有するサービス)のような小規模で閉鎖的なコミュニティでの直接的なメッセージ交換を好む。これに対し、ミレニアル世代はソーシャルメディアを使ってより広い範囲でコンテンツを共有している。
モノよりも自分の行動に価値があると考えて行動するジェネレーションZ世代が「影響力」モデルへシフトしやすいため、今後もこの世代から価値観の移行が始まっていくことが考えられます。
■最後に
価値は時代や環境によって変化しますが、重要なのはマクロな価値観を捉えることと、ミクロな価値観を捉えることだと思います。マクロな観点では、A.T.カーニーの調査のような世界の大きなトレンドを把握することが重要で、ミクロな観点では個人のデータを用いた分析が重要になると思います。個人の行動データや属性データから一人一人の価値観を抽出し、個人のプロファイル分析をしていくと、上記の「意味的価値」を定量的な価値として分析できるようになります。その結果として、より細かい粒度で個人の価値観を把握することができ、その人が「何を求めているか」を理解できます。Amazonは、通常のセグメンテーションよりも細密な「1人のセグメンテーション」、さらにはある特定の時間や場所などにおけるセグメンテーションを実施した「0.1人のセグメンテーション」を実施可能です。1人という枠組みを超えて、誰が、いつ、どこで、何をした時に求める価値は何かを把握することが今後のデータ戦争の中では重要になると思います。
以上のマクロ・ミクロ両者の観点で「価値」を捉えることで、企業-消費者、人-人の間において、価値の送り合いを最大化できると期待しています。
追記:
■誰に価値を提供するか
誰に価値を提供するかを考えます。ここで興味深いのは鎌倉投信が提唱する「八方良し」の考え方です。社員から経営者、国や地域などと連携し、社会全体に価値を出していくことを目指した新しい考え方だと思います。ある製品・サービスを考えたときに、それがこの八方に対してどのような影響を与えるのかをチェックリスト的に把握しておくことが大事だと思います。
出所:『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)*6
*1:「意思決定の脳メカニズム -顕在的判断と潜在的判断-」
- 作者: 延岡健太郎
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/09/21
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*3:
Consumption Values and Market Choices: Theory and Applications
- 作者: Jagdish N. Sheth,Bruce I. Newman,Barbara L. Gross
- 出版社/メーカー: South-Western Pub
- 発売日: 1991/05/01
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*4:
- 作者: Steve Diller,Nathan Shedroff,Darrel Rhea
- 出版社/メーカー: New Riders
- 発売日: 2005/12/21
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*5:
*6:
「欲望」の深堀 -動的平衡の観点から-
今回は「欲望」について掘り下げます。最初に生物の体内で起こっている現象から考えていきます。
■生物は「分解」と「合成」を繰り返す
そもそも、私たちはこの世界で、熱力学第二法則という物理法則に支配されています。この法則は、全ての物質のエントロピーは増大することを示しており、すなわち私たちはいつか崩壊する(死ぬ)ことになります。
この法則に抗い、生きていくために、私たち生物は体内で「分解」と「合成」を繰り返すことでエントロピーを下げ、生命を維持しています。例えば、ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅先生の研究テーマである「オートファジー」は、典型的な「分解」と「合成」の現象です。オートファジー(autophagy)の"auto"はギリシャ語の「自分自身」を表す接頭語、"phagy"は「食べること」を示しています。現象としては、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときに、タンパク質のリサイクルなどをしています。このオートファジーなどの現象によって、エントロピーが捨てられているのです。
細胞が自分を食べる オートファジーの謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)
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■「物質の下る坂」に抗うための欲望
フランスの哲学者アンリ・ベルクソンは、著書「創造的進化」(1907年)の中で、「生命には、物質の下る坂を上ろうとする努力がある」と言いました。
物質の下る坂とは、この世界で生きている以上避けられない、エントロピー増大の坂を示しています。既に、生物は「分解」と「合成」を繰り返すと述べましたが、それはあくまでハード面(物質面)で坂に抗う現象です。ここで、ベルクソンが言う、物質の下る坂を登ろうとするには、ソフト面(精神面)も考慮する必要があると思います。私たちは生命体として生きるために、それぞれが「欲望」を持っています。*1基本的なものでは、お腹が空いたり、眠たくなる等の欲望があり、その欲望を満たすこと(食事・睡眠をする等)で、私たちは生命体としての機能を維持しています。欲望は、私たちが生きるために組み込まれた標準システムなのです。
欲望の満たし方は2つあります。
1. 自分で欲望を満たす。(自分で狩りに行って、自分で獲物をつかまえるなど)
2. 他力で欲望を満たす。(誰かが作ったものを自費で購入するなど)
当然ながら1の方法には限界があります。一人でできることは限られているからです。そのため、人は他の人を媒介し、商品やサービスを使用したり、消費したりして欲望を満たしています。ここで、商品やサービスの使用・消費の前段階には、「取引」が発生しています。例えば、一般の人はスマートフォンが欲しくても、それを自分の手で作り出すことはできません。携帯電話ショップに行って、お金を払って購入すること(取引)で、メーカー(他人)が作ったスマートフォンを入手し、欲望を満たしているのです。特に、時代が新しくなり情報や製品・サービスが多様化・複雑化する中では、他人を媒介にして欲望を満たす方の割合が増えてきています。
このように考えると、人は必要に応じてPainとGainを繰り返して生きていると考えられます。ここで言うPainは、それ単体では自身にとってマイナスの影響を与えるもの(支出など)を示し、Gainはプラスの影響を与えるもの(商品入手など)を示します。
物質のエントロピー増大に対して、生物が分解(Pain)と合成(Gain)で対応しているように、欲望の増大に対して、人が自力で対応できないときは、製品・サービスに対する対価を払い(Pain)、とそれらを入手・消費(Gain)しています。これにより精神的なエントロピーを捨てるかのように、欲望を消費しています。このように人はハード・ソフトの両面においてPainとGainのバランスを取りながら生きています。
"No pain, no gain" -まさにその通りの現象が起こっているのです。
*1:欲望とは、身体を維持するために、脳から発生する生理的な現象です。
価値最大化のためのデータ活用 -データ利用の歴史から IoT・AI時代のデータの本質-
前回の続きです。
■データ活用の歴史を振り返る
いつの時代も、「見える化→分析→施策の実行→検証」は繰り返されてきました。
データの「見える化」の代表例である国勢調査は、紀元前3800年代バビロン王朝でも行われていました。また、中世においても、国家の運営に必要な情報を取得するために、国家が人口・世帯の調査を行っていました。
時代は変わり、機械の登場によって情報のやり取りは、人間よりも計算機(正確には電子)に任せるようになりました。当然ながら、電子の移動速度は圧倒的に早いため、人間は計算機を使って圧倒的に速い情報処理が可能になりました*1
また、情報量は爆発的に増加しました。
近年は、AI・IoTの発展もありデータ量が増加しています。世界のデータトラフィックはCiscoによると、2017年から2020年にかけて約1.9倍に増加し、2020年には1か月あたり228エクサバイトに達すると予測されています。
[平成30年 情報通信白書 より]
世界のIoTデバイスの推移も、2020年には、2015年の約2倍の数になることが予測されています。
[平成30年 情報通信白書 より]
さらに、計算アルゴリズムはパッケージ化*2 され、非常に使いやすくなりました。これによって、誰もが機械学習を実行できるようになり、計算アルゴリズムの民主化が起きました。
以上のような観点から、大量のデータと計算機を活用して分析をすることで、従来と比べて示唆を出すことが容易になりました。今では、データに非常に価値があると考えられており、データは21世紀の石油とも言われています。データを分析して、人間が感じる価値を最大化させたり、資源の効率的・効果的な使用につなげやすくなっています。
■データから本質的な構造を見つける
ここで本質的に重要なのは、ヒトの体験価値と資源側の提供価値を最大化する構造を見抜くことです。その構造を浮き彫りにするために、データやアルゴリズムがあるのです。
情報・データは限界費用が限りなくゼロに近いため、これまで爆発的にボリュームが増えてきました*3そして、デバイスの発展によって、大量のデータを短時間に処理することができるようになったため、情報通信産業はさらに発展を遂げています。データを活用した見える化から、分析、実行を高速で繰り返すことで、より早くビジネスの構造を理解する手助けになるのです。
限界費用ゼロ社会 <モノのインターネット>と共有型経済の台頭
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デジタル時代の価値最大化社会
■走りながら全体像を描く
今まで書いてきた記事の中では、具体的な事象について書いてきましたが、最近ようやく自分がどんな未来予想図を描いていて、本質的に何を実現したいのかが、おぼろげながらわかってきました。
これからは、まず自分が潜在的に考えている、ビジネス全体概要を絵に落とした上で、その中の個別具体的な内容を記事として書いていきたいと思います。
今後、具体的な内容を書いていく中で、自分の中で気づきや修正点があった時は、もともと描いていた全体像をアップデートしていきます。(これがブログの良い所)
■デジタル時代の価値最大化社会
これから先、世界がどのように変わっていくかなんて、誰にも分かりません。
ただ、分かるのは「これまでに人がどのような行動をしてきて、そのためにどんな資源を活用してきたか」です。
そこで考えたことは、ビジネスにおける全ての物事は、
「人間中心アプローチ」と「資源中心アプローチ」で語れるのではなかろうか、ということです。
先に、今考えているビジネス全体像を以下に示します。
(なお、現段階のビジネス全体像は仮版でまだまだダサいと思っているので、これからアップデートしていきます。)
図の左側に人間中心アプローチ、右側に資源中心アプローチを設定しています。
・人間中心アプローチ
このアプローチは、ヒトの欲望から始まり、そこから対象商品・サービスの検索・発見、意思決定、契約等を経て最後に使用・体験につながります。これらのフェーズがうまく進むと、顧客体験価値が上昇していく様子を描いています。ここで、今後の記事で詳しく書きたいのが「信頼」の重要性です。ヒトの欲望があったとしても、その欲望を満たしてくれる製品・サービスが信頼できないものであれば、その製品・サービスは購入されることはありません。それほどまでに信頼は重要です。
・資源中心アプローチ
このアプローチでは、ヒト・モノ・カネ・情報の「資源」から始まり、それらを加工・組み合わせて、商品・サービスへとつなげ、事業化、マーケティングを経てユーザーに届きます。これらのフェーズがうまく進むと、提供価値を高めることができます。
現代社会では、限られた資源の中で顧客体験価値と提供価値を最大化することが社会的使命だと感じています。個人的には、このような限定された条件でいかに価値を最大化するか、という問題には非常に興味があります。デジタルの時代にこの問題を解くには、データサイエンス等の分析の観点も非常に重要になります。さらにテクノロジーの活用が必須になるため、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、データベースなどの観点も重要になります。さらに、ソフトウェア等を活用したUI,UXの観点も避けられません。今後は、分析の方法や上記の要素技術、UI,UXについても触れていきたいと思います。
人間中心アプローチ・資源中心アプローチの各フェーズには、語るべき内容が大量に含まれています。今後は、各フェーズの内容を細かく見ていき、パズルのピースを1つ1つ埋めていくように、ビジネス全体像をより明確に描いていきたいと思います。
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則
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