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ビジネスモデル進化論

今回のテーマはビジネスモデルについてです。

最近は色々と自分がやりたい事業を考えていて、その中でそもそも「ビジネスとは何か」を再度考える必要があると感じました。
というわけで、今回はビジネスを構造的に捉え、「ビジネスモデルとは何か」を掘り下げていきたいと思います。

■ビジネスモデルとは何か
ビジネスモデルという言葉ほど、便利で曖昧なものはないかもしれません。実際にも、クリストフ・ゾット、ラファエル・アミットらが著した論文「The Business Model」によると、この言葉にはまだ的確な定義がなく、使う側も4割はそんなことには拘らずに使っているそうです。

それでは、ビジネスモデルがどのように議論されてきたのかを見ていきましょう。

■1990年代後半

・プロフィットゾーン
1997年にエイドリアン・スライウォツキーは、ビジネスモデルという言葉を用いていませんでしたが、「プロフィットゾーン」という言葉で25種類のビジネスモデルをパターン化して示しました。ビジネスモデルの概念を説明したというよりも、どんなパターンがあるかを示した形です。
(以下のサイトでは、23種類のビジネスモデルを説明しています。)

「ザ・プロフィット」で紹介されてる23の利益モデルのまとめ









・ネットビジネスの経営戦略
根来龍之(早稲田大学ビジネススクール教授)は、ビジネスモデルを「どのような事業活動をしているか、あるいは構想するかを表現する事業の構造のモデル」としています。
ビジネスモデルの吟味・検討には、①戦略②オペレーション③収益の3つが必要であり、戦略の方向がビジネスモデルと顧客との接点を吟味するため、最も重要だとしています。

①戦略:顧客に対して、仕組み (資源と活動)を基盤に、魅力づけして提供するかについて表現する
②オペレーション:戦略モデルを実現するための業務プロセスの構造を表現する
③収益:事業活動の利益を確保するのか。収益方法とコスト構造を表現する

 







・オープンアーキテクチャ戦略
國領二郎慶應義塾大学 総合政策学部 教授)はビジネスモデルを「経済活動において、四つの課題に対するビジネスの設計思想」としている。

①誰に、どんな価値を提供するか
②その価値をどのように提供するか
③提供するにあたって必要な経営資源をいかなる誘因のもとに集めるか
④提供した価値に対してどのような収益モデルで対価を得るか 

 






1990年代後半に出てきたビジネスモデルへの解釈では、大まかな思想が説明されています。
次に2000年代以降には、またビジネスモデルへのとらえ方が変わっています。

■2000年代以降

・ホワイトスペース戦略
 ビジネスモデルを包括的にとらえようとする者もいます。例えば、ホワイトスペース戦略を著したマーク・ジョンソンは、収益の上げ方のみならず、それを取り巻くいくつかの要素をビジネスモデルに含めました。議論すべき範囲を広げ、ビジネスモデルを「顧客価値提案」「利益方程式」「主要業務プロセス」「主要経営資源」という4つの構成要素から成り立つものとして示しました。(2010年)

ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ
マーク・ジョンソン
CCCメディアハウス
2011-03-29



・ビジネスモデル・ジェネレーション
同じような範囲を扱いながらも、より詳細に分析できるようにした枠組みがビジネスモデルキャンバスです(2010年)。
こlこでは、ビジネスモデルとは「組織が財政的に存続するための論理である」と定義しています。簡単に言えば、組織が生計を立てるための仕組みです。
ビジネスの共通点は「顧客」の「ニーズを満たすのに役立つ」ことで、収入を得ています。
そこで、ビジネスモデル・キャンバスは組織活動を9つの要素に分類し、それぞれがどのように関わり合っているかを描き出すテクニックです。

business_model


①顧客(Customer Segment):CS
組織が作りだす価値を届ける相手:人、他の組織

②顧客価値提案 (Value Propositions):VP
顧客の抱える問題を解決し、ニーズを満たすもの

③チャネル (Channels):CH
顧客の求める価値を提供していることを告知する方法、その価値を届ける様々なルート

④顧客との関係 (Customer Relationships):CR
顧客との関係性を構築、維持、展開するための様々な仕組み

⑤収入 (Revenue Streams):RS
顧客に、与える価値が届けられる際、支払われるお金

⑥キーリソース (Key Resources):KR
これまでにあげた要素を提供するのに必要となる資源(リソース)

⑦キーアクティビティ (Key Activities):KA
ビジネスモデルが機能するように組織が取り組まなければならない活動

⑧キーパートナー (Key Partner):KP
外部に委託(アウトソース)される活動や、外部から調達されるリソース

⑨コスト (Cost Structure):CS
キーリソースを調達し、キーアクティビティを行い、キーパートナーと働くために支払うコスト

また、以下のサイトでビジネスモデルキャンバスをダウンロードできるようです。
https://strategyzer.com/canvas/business-model-canvas 




■ビジネスモデル・キャンバスを基にした概念
・ビジネスモデルの教科書
この書籍の中では、基本的にビジネスモデル・キャンバスに基づいていますが、ビジネスモデルを以下のように定義しています。
「戦略とともにビジネス機能やプロセス、それを支える経営資源の種類や使い方などの社内仕組み、チャネルや提携先などの自社の仕組みの延長のあり方を組み合わせたもので、それらの間の整合性や因果、さらには仕組みが生み出す顧客や競合など外部への作用をも包含する概念。
コーポレートレベルにおいては、複数の事業の組み合わせや事業間の仕組みへの影響、さらに顧客や競合など外部への作用を包含する概念。 」












・ ビジネスモデル・パターン
 ビジネスモデル・キャンバスとピクト図解を用いて、「ビジネスモデル・パターン」の考え方を提唱しています。


 

■「ビジネスモデル全史」の立場から
数々のビジネスモデルを俯瞰した「ビジネスモデル全史」という書籍があります。これを書かれた三谷宏治さんの定義では、「ビジネスモデルとは、旧来の戦略的フレームワークを拡張するためのコンセプト・セットであり、その目的は多様化・複雑化・ネットワーク化への対応である。」とのことです。
戦略フレームワークとしては次の5つの特徴があります。
これまでは、①ターゲット(狙うべき顧客)の同定・絞り込みが経営戦略のスタートでした。ビジネスモデルではそれが、ステークホルダー全体の明確化となります。いわば、そのビジネスにかかわる大事なプレイヤー全部が「顧客」なのです。
ゆえに、②従来のバリュー(提供価値)は、トータル・バリュー・クリエーション(TVC:全体価値創造)となります。
一般に自社が受け取れる報酬は、相手に与える価値の裏返しですが、この場合は直接的顧客だけでなく、全ステークホルダーにおいて生まれる価値の総和が自社の報酬の上限となります。
それらをどう自社に掻き集めるかが、③レベニュー・ストリーム(収入流)で、コストと組み合わせればプロフィット・フォーミュラ(収益方程式)となります。無料顧客と有料客をどう組み合わせるのか、広告にしても大手を狙うのか、細かく集めるのか、などなどです。
最後に、④これらを実現するための、オペレーションや資源(ケイパビリティ)が問題になりますが、それを「自社のバリューチェーン経営資源」として狭くとらえるのではなく、「他社や競合との協調まで含めてのバリューネットワーク」として考えます。
この①~④を統合したものが「ビジネスモデルの視点」からの経営戦略フレームワークなのです。
⑤これら4つの項目は、上下なく、行き来しながら(スパイラル上に)生み出していくべきものなのです。 





■ビジネスモデルの最先端のとらえ方
2016年9月にMIT Management Reviewに掲載された"The Hard Truth About Business Model Innovation"が最先端のビジネスモデルのとらえ方だと思います。
この論文は、「イノベーションのジレンマ」で有名な、ハーバードビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンらによって著されました。

この論文では、ビジネスモデルはValue proposition, Profit formula, Resource, Processesの4つの箱から構成されるとしています。上記のホワイトスペース戦略の「顧客価値提案」「利益方程式」「主要業務プロセス」「主要経営資源」とほぼ同じです。Profit formulaは、利益を得るための、マージンや売上規模の設定方法をあらわし、Processはインプット(資源)を最終製品・サービスに変える方法をあらわします。

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今までのビジネスモデルのとらえ方と違うところは、ビジネスモデルを3段階に分けて論じているところです。
1.Creation
最初の段階では、事業を創り出すだめに、「何を提供するか」を考えます。また、それを提供するためには、ヒト・モノ・カネを用意する必要があります。

2.Sustaining Innovation
ここでは、事業が進んできた段階で顧客のデータを収集して、継続した事業展開ができるようにタスク設計をします。

3.Efficiency
最後に、事業が軌道に乗ってきた段階では、効率化を図ります。「利益方程式」で最もコストカットや時間削減ができるような方法を導出していきます。

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以上のように、時間軸を考慮した上で、ビジネスモデルを考えています。

■まとめ
以上のように、ビジネスモデルの考え方がどのようなものがあるか、どのように変わってきたかを議論してきました。
その結果、僕なりの結論としては、
①事業の粒度にあったビジネスモデルのフレームワークを使いつつ、
②時間軸も考慮に入れた分析ができる
とベストだと思います。

ではでは。